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キッチンシンクに向かった俺は、柊さんに背を向けているのをいいことに、露骨に顔をニヤけさせた。そうか、柊さんは誰とも付き合ったことがないのか。可愛いな。いや、可愛いとか思っちゃ失礼か。でも可愛いな。しかも、好きって言われたし。俺じゃないけど。コーヒーがだけど。
柊さんは俺のことをクールでカッコいいと言ったが、実際は全然そうじゃない。本当の俺は、柊さんの言動に一喜一憂してしまう、結構残念な奴だ。
一目惚れした相手についてうじうじ考える気持ち、よく分かりますよ、マコトさん。
コーヒーを注いだマグカップを両手に持って振り向くと、柊さんはビーズクッションの上で丸くなって眠っていた。
「……」
俺はマグカップをそっとシンクに置くと、出来るだけ足音を立てないように近付く。初めて目にする、柊さんの無防備な寝顔。ずっと見ていたいと思う気持ちと、下心丸出しでこのピュアな寝顔を見るのは良くないと思う気持ちがぶつかり合って、どうしていいか分からなくなる。
「柊さん」
思わず名前を呼んだものの、柊さんが目覚める気配はない。
俺はふーっと長く息を吐いてから、柊さんの長い睫毛に向かって言った。
「俺はあなたの恋人になりたいです」
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