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(3)
「ローラ、まったく君というひとは。本当に天の国に向かうつもりはあるのかい」
「まあ、天使さまったら。人聞きの悪いことをおっしゃるんですから。よりよい方向に行くように、最速で頑張りましたのよ」
「行動が無駄を省き過ぎているんだ。見てごらん、君がいなくなったあと、大広間は阿鼻叫喚じゃないか」
「今回は死ぬ直前で回収してもらっていますのに騒ぎ過ぎですわ」
ローラがいるのは、いつもの不思議な空間だ。天界と下界の隙間にある場所からは、先ほどまで彼女がいた王宮の様子を鏡越しで覗き見ることができる。この様子だと今回も「めでたし、めでたし」とはいかなそうだった。
「もう少し穏便に済ませてほしいのだが」
「怒っていないことも、幸せになってほしいこともしっかり伝えましたのよ」
「あの状況でそれだけ冷静だと、逆に裏があるようにしか見えない」
「まあ、人間って面倒くさい生き物なのですね」
頭を抱える天使を前に、ローラはころころと笑う。なぜなら彼女の目的は、早くこの天使に会うことなのだ。そのためなら多少婚約破棄の幕引きが強引になったところで構いはしない。
「君は、やりなおしの目的をわかっているんだよね?」
「ええ、もちろんです。私がしっかり未練を失くして天の国に向かわねば、この世界に魔王が復活してしまうのですよね」
「……酷なことを言っているというのは、わかっているつもりだ。それでも世界を救うために、彼のことは諦めてほしい」
「私、元婚約者のことなどどうでもよいのですけれど」
「それならば、どうして君は天に昇れないんだ」
「さあ、どうしてでございましょう。少しばかり甘いものを食べ過ぎて、身体が重くなってしまったせいかもしれませんわね」
「ふざけている場合ではない」
「まあ天使さまったら。そんな風に怒ってばっかりいると、眉間に皺が入ってとれなくなってしまいますわ。それに『憤怒』は大罪のひとつでしてよ」
くすくすと笑いながら、ローラは天使の顔にそっと手を伸ばす。
(だって、私の未練はあなたへのものですもの。何度婚約破棄をやり直したところで、天に昇れるはずがありませんわ)
「天使さま、恋というのは至上の甘味だとご存知かしら?」
「わたしには、そうは思えないがね」
麗しい天使の苦々しい顔を前に、ローラは小さく吹き出した。
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