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「もともとの命令は、問答無用で君の魂を打ち砕けというものだった」 「天の皆さまは、大義のためには強引なこともなさいますものね」  ローラは、教会の教えを思い出しながらひとり納得する。 「君の真面目な暮らしぶりを知っていたから納得できなくてね。空の上まで届く君の祈りは、心地よかったし。反発して、司祭として教会に潜り込んだんだ」 「それは、大丈夫だったのですか」 「天界での序列は降格されたらしい。まあそれで意に沿わない命令を無視できるのなら安いものだよ」 「そういうものでしょうか」 「そばにいれば、君の気持ちが痛いほどよくわかった。それでも魔王を復活させたことで君が傷つくのは見たくなかったから、何度も時を遡らせたんだ」 「それは……」 「もちろん命令違反だね。まあ、結局魔王となったのは自分なのだから、これでよかったんだ。おかげで、ずっと君の隣にいられるんだから」  楽しそうに笑うバージルは、天使だったことへの未練はないらしい。そのままローラの唇をついばんでくる。 「魔王になったことで、天界の皆さまから追われることにはならないのですか?」 「おそらく、少しばかり未来が変わったんだろうね」 「と、言いますと?」 「考えられうる限り最悪の未来は、君の好きなひとが元婚約者だとわたしが思い込んだまま、君の魂を打ち砕いてしまった場合だろう」 「なるほど?」 「それで一体何が変わるのかと言いたげな顔をしているけれど、君がいなくなったらあの国どころか、世界を滅ぼしたと思うよ」 「あらまあ、それは大変です」 「またそんな緊張感のかけらもない顔をして」 「いえいえ、世界を滅ぼしてくださるほど愛されていて、私は幸せですわ」 「そう? やっぱりあの国だけでも、滅ぼしておこうか?」 「結構でございます。もうすでにあの国、めちゃくちゃなんですもの」 「そうかい。それなら、魔王らしく昼間から色欲に溺れてみようか」  バージルはうっそりと微笑み、彼女の耳を食んでみせた。
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