彼女との関係

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「俺さ、実は大学で彼女を見つけた時、正直戸惑ったんだ」  玲弥さんが、あの女の人について語り始めたから、僕は何も言わず耳を傾ける。 「まさか再会するなんて思ってなかったから……声を掛けられた時は、焦ったよ」  思い出しながら、あなたが話を続ける。 「ほらっ、俺がここに引っ越ししてきた頃のこと覚えてる?」  その問い掛けに、静かに頷いた。 「あの時、引っ越してくるの本当は嫌だったんだ。彼女と離れたくなかったんだよ。子供心に好きな子とさ。だから、初めてあの家を見たとき、切なかったんだ……。お前のせいで……なーんて思っちゃうくらいにね」  冗談っぽく言うあなただけど、僕にはこれが本心だといことがわかる。  それは、初めてあなたを見たときに感じたままの答えだったから――。  初めてあなたを見たときの、あの切なそうな表情は、あの女の人と離れたくなかったからだったんだ。  ようやく、あの時の謎が解けた。僕の中で、ずっと引っ掛かってたことだったから――。 「けどさ、いざ住んでみたらすぐにここの生活が楽しくなって、初恋の人のことなんて忘れてた。まあ、そういう言い方は良くないけど、思い出に出来たんだ」  はっきりとした言葉だった。  玲弥さんの中で、あの人はもう思い出の人になったってことだよね? 「じゃあ、今は……」 「俺にとっては、ただの同期生」 「でもっ……」  そう言い掛けて、言葉に詰まる。思わずあの日のことを口にしてしまいそうになった。  高校最後の試合の日、僕がここで二人を見ていたことを……。 「でも、何?」 「いやっ、別に……」  顔を逸らしてやり過ごそうとした僕の腕を、あなたがキツく掴んでくる。 「言いたいことがあるなら、ちゃんと言って」  真っ直ぐと僕に向かってあなたが言う。  僕は少し考えて、話すことにした。 「見たんだ……。二人がここでケンカしてるの」 「ここで?」 「そう……。サッカーの試合の日、朝早くに目が覚めたから、今日みたいにランニングをしに来たんだ。そしたら……」  思い出して、僕はグッと奥歯を噛んだ。 「あっ、あれね……。見られてたんだ……」 「たまたま通り掛かったら玲弥さんの声が聞こえて……ちょうど二人が言い合ってる時だった」 「ふーん……」  思い出したくない場面が、次々と頭を過っていく――。  あなたは、少し何かを考えた後、ふと僕の方を見た。 「気になる?」 「いえ……別に……」 「そっか、ならいいや」  気になりながらも、素直に聞くことができない。  そして、あなたはそう言うと、ゆっくりとベンチから立ち上がった。 「玲弥さん……?」  すぐにあなたを呼び止めると、歩き出そうとしていた足を止めて、その場に立っていた。 「断ったんだ……」 「えっ……?」 「彼女からの告白を断った。そしたらやけになっちゃって、放っておくこともできないから、後を追いかけて家まで送ったんだ」 「そうだったんだ……」  あなたの言葉を聞いて、僕は何故かホッとしていた。  付き合っていた訳じゃない――むしろ、あなたはあの人からの告白を断っている。 「昨日は、授業で必要なデータを写させてもらってた」 「そうなんですね……」  ついでと言わんばかりに、昨日のことも説明してくれた。それを聞いて、またホッとしている僕がいる。 「俺は、他に好きなやつがいるから……」  それだけ告げると、あなたはそのまま歩き出す。  僕は、その後ろ姿をただ見つめていた。  見えなくなるまでずっと……。    あなたの好きな人――それは一体、誰なのだろう?
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