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「壮亮……?」
いつまでも俯いたままの僕の名前を呼ばれるけれど、今の僕の顔を見られたくない――。
きっと、酷い顔をしているから――。
「顔上げて……」
優しく囁くようにあなたが言う。
それでも顔を上げない僕の頬に両手を当て、ゆっくりと顔が持ち上げられていく。
恥ずかしくて、あなたのことをまともに見れないでいると――、
「どうしてそんな顔してるの……?」
戸惑ったように聞いてくるあなたに、僕はただ首を振ることしか出来ない。
すると、今度は僕の頬を強引に自分の方へ引き寄せ、そのまま唇が重なった。
何が起こったのかわからず、目を見開いたまま、今の状況を必死で把握しようとするけれど、今わかるのは、あなたとの距離がなくなっているということだけ――。
しばらくすると、重なっていた唇が離れていき、動けないでいる僕を、真っ直ぐに見つめてくるあなた。
「なん……で……?」
声を振り絞った、精一杯の言葉だった。
「壮亮があんな顔するから……」
そう言ったあなたは、僕から顔を逸らして、右手の親指で自分の唇に触れた。
あんな顔って――僕は、嫉妬心まみれの酷い顔をしていたに違いない。
あなたの好きだという見えない相手に、勝手に妬いていたのだから――。
「僕は……」
何をどう伝えていいのかわからず、言葉に詰まり、唇を噛み締める。
「そんな困った顔すんなよ……」
悲しそうな目をして、あなたが僕を見つめてくる。
違う――困っているわけじゃない――何がどうなってるのかがわからないだけ――。
自分の中にあった嫉妬心と、たった今起こった出来事の間で、必死に答えを探しているけれど見つからない。
あなたは、どうして僕にキスをしたの?
あなたは、どうしてそんなに悲しそうな目をしているの?
僕はただ、答えが欲しいだけ――……。
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