60人が本棚に入れています
本棚に追加
好き宣言
結局、答えのないままあなたは帰って行った。
残された僕は、唇に残る感触に指で触れる。
思い出すだけで熱くなる身体――あなたには好きな人がいるはずで――それなのに、僕にキスをした。
これは一体、何を意味するのだろう?
頭の中は破裂寸前というくらいこんがらがっていて、僕はまた眠れぬ夜を過ごすことになった。
眠れなかった僕は、鏡の前に立って自分の顔を見れば、目の下にはっきりとくまが出来ている。
「まただ……」
人指し指で軽く押さえ、一度だけ溜め息をつくと、そのまま学校へ向かった。
学校では、徹夜でゲームでもしてたんだろうってからかわれて、適当に話を合わせて笑い話にしていたけれど、本当はまだ頭の中は昨日のことでいっぱいだった。
あなたの僕を見つめる目が忘れられなくて――
あなたの唇の感触が忘れられなくて――
思い出すだけでドキドキするんだ。
学校が終わり、真っ直ぐ家に帰ろうとあの曲がり角を曲がった瞬間――、僕の目に、信じられない人が飛び込んできた。
それは間違いなく、あなたの初恋の人――。
誰かを待っているかのように、体をユラユラ揺らしながら、リズムを刻んでいる。
僕は、思わず下を向き、そのまま玄関のドアに手を掛けた。
「あっ、あなたこの間の……」
僕の姿に気づいた女の人が、声を掛けてくる。
「えっと……」
「この前、そこの角でぶつかった……」
「ああ……あの時の……」
気づいていなかったフリをして、対応する。
その女の人は、にっこりと微笑みながら、僕を見ていた。
「もしかして、あなたが壮亮君?」
「そうですけど……どうして僕の名前……」
「ふーん……」
僕の名前を口にしたその人は、上から下までの隅々に目を凝らしてくる。
「あの……」
その視線が嫌で、気をそらそうと声を掛けた。
「そっか、あなたが……」
「僕が何か……?」
「ちょっと会いたくなったの。玲弥君の幼馴染みなんでしょ?」
「幼馴染み……まあ、そうですね」
幼馴染み――その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
「壮亮君、覚えておいて。私は、玲弥君が好き。絶対に諦められないの」
僕に向かって真剣な表情で伝えてくる。
それだけで、この人の想いが本当なんだということが、痛いくらい胸に突き刺さった。
「どうして僕に……?」
「何でだろ……? けど、どうしても言っておきたくて」
「はい……」
どう答えていいのかわからなかった――。突然の出来事に戸惑いを隠せない。
そんな僕の姿を見て、その人はクスッと笑い、そのまま帰って行く。
僕は、ただその後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。
どうして、わざわざ僕に会いに来る必要があったのだろう?
どうして、玲弥さんのことが好きだと告げる必要があったのだろう?
また僕の頭の中はパニック状態で、眠れない夜が続く――。
最初のコメントを投稿しよう!