キスの理由

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キスの理由

 あなたにキスをされてから、僕の唇にはずっと感触が残ったまま離れない。  あんなにも近くて、すぐ側に感じたことなんて、今までなかった。  思い出すだけで身体が熱くなる――。  そして、あなたの初恋相手の諦めない宣言も僕の頭に残っていた。  あれほどにキレイで大人っぽい人が、わざわざ僕に会いに来るなんて、そんな馬鹿げた話があるわけがないのに、現実に起こっている――。  今日は、家庭教師の日。  一週間ぶりにあなたが家に来る。  僕は、正直どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。 ――ピンポーン――  インターホンが鳴り、いつもなら駆け足で階段を降りるのに、足取りが重い――。  ようやく階段を降りて、玄関の扉を開くと、 「こんばんは」  そう言って、いつも通りに立っているあなたがいた。 「こっ、こんばんは。どうぞ」 「お邪魔します」  家の中へ招き入れると、会話なく部屋へと向かい、いつもと同じように机を挟んで向い合わせで座った。  閉め切った部屋に二人――普段ならこんなに緊張することなんてないのに、変に意識しているせいか、どぎまぎしてしまう。 「ねえ、もしかして緊張してる?」 「えっ……あっ……」 「大丈夫、もうあんなことしないから。安心していいよ」  クスッと口元を緩めながら、伝えられた言葉――。  どうして何もなかったみたいに普通でいられるの?  ドキドキして、緊張してるのは僕だけ――? 「あっ……あの……」 「ほらっ、勉強始めよう」  僕の話を遮るように、あなたが言う――。そして、言われるまま、勉強が始まった。  でも、集中なんてできない――理由が知りたい――。  どうして僕にキスをしたのか――その理由を聞かせて欲しいんだ。
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