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「玲弥さん……このままじゃ集中できない」
「……だろうね」
僕は思いきってあなたに告げた。自分でも驚いている。いつもの僕なら、こんな行動に出れないはずなのに――、それだけ知りたいってことなのだろう。
そんな僕に、あなたがようやく向き合うように座り直すと、ゆっくりと顔を上げる――そして、目が合う。
真っ直ぐに見つめられていて、心臓が大きく脈を打ち始めた。
「どうして……僕に、あんなことを……?」
震える声で問い掛けると、あなたが少し考えながら、深く息を吐き、もう一度僕の目を見ると、
「キスしたかったから……」
「えっ……?」
「キスしたかった……」
あなたの答えは、それだけだった。
キスしたかった――。それだけを真っ直ぐ僕の目を見て伝えてきたんだ。
答えになっているのかわからないけれど、その言葉が何故か嘘じゃない気がした。
「勉強しましょう」
それ以上何も聞かずに伝えると、あなたは優しく微笑みながら頷いた。
満足のいく答えじゃなかったけれど、キスをしたかったという言葉は、嫌じゃなかった。
それに、そういう答えが返ってきたということは、僕はあなたに嫌われてないってことだと思うから――。
いや、そうじゃない――その先の答えを聞くのが怖かったから、聞くことをしなかった。
その結果、きちんとした理由も聞けないまま勉強を進めていく。
ただ、一つ言えるのは、さっきまでのモヤモヤした気持ちからは少し解放された。
もう少し僕に自分の気持ちをぶつける勇気が出るまで、このままでいよう。
せっかくこうしていられる時間を大切にしたいから――。
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