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大学見学
約束の土曜日。
学校が終わり、あなたのいる大学へと足早に向かう。
授業が終わった後にメールをしておいたから、後は現地へ行くだけ――何となく心が弾んでいた。
デートじゃないけれど、外で二人で会うことに僕はソワソワしていた。
大学を見学させてもらうだけなのに――……。
このスマホのナビが正確なら、もうすぐで大学へ着くはずなんだけれど――
「あの信号を左に曲がったら見えるはず……」
スマホを片手に独り言のように小さく呟き、信号を左に曲がると少し先に大きい建物が左右にドンッと姿を現した。
あまりの迫力に、僕は一旦足を止める。
大学って、思っていたよりもずっと広くて大きいんだ――。
しばらくそのまま見入っていると、手の中にあるスマホが振動した。
はっとして画面を見ると、そこにはあなたの名前が表示されている。
僕は慌ててスマホを握り直すと、通話ボタンをスライドさせた。
「はい」
「そんなところで突っ立って、何してるの?」
「あっ、えっ、どうし……て……?」
スマホの向こうから聞こえてきたあなたの言葉に、きょろきょろしながら辺りを見回すと、少し先にある大学の入口付近で、スマホを耳に当てているあなたの姿が目に留まった。
スーっと力が抜け、真っ直ぐに立ち直ると、僕はあなたのいる場所を目指して足を進める。
「じゃあ、後で」
そう言うと、電話は切れた。
スマホを制服のパンツの後ろポケットにしまう。
近付くにつれて、だんだんとあなたの姿がはっきりと見えてきた。
でも、その隣には思いもよらぬ人物が立っていた。
「こ、こんにちは」
「あなたが壮亮君?」
「はい」
「初めまして。私、玲弥君の幼馴染みで、西郷純菜といいます」
「どうも……。初めまして……柳原壮亮です」
にっこりと笑顔で初めましてと挨拶をしてきたのは、紛れもなく、あの僕の家の前にいた人――あなたの初恋の相手である彼女だった。
僕のところへ来たことを、きっとあなたは知らない。
初めましてと言われて、思わず初めましてと返してしまった。
あなたの隣に立つ純菜さんは、がっちりとあなたの腕に絡み付いたまま離れようとしない。
「迷わなかった?」
「はい。大丈夫でした」
「そう……良かった。純菜がどうしても壮亮を見たいって言って……一緒でも平気?」
「もちろんです」
「よろしくね、壮亮君」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
大丈夫な訳がない――。
純菜さんが僕に向ける視線は、どこか挑発的に見えて仕方ない。
あたかも初めて会ったかのような振る舞いで接してくることが、とても信じられなかった。
それでも、申し訳なさそうに伝えてくるあなたを見ると、嫌だなんて言えない。
仕方なく、三人での大学見学が始まった。
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