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「あの……僕が何か関係してるの?」
二人の間に流れる険悪な雰囲気の中、僕は小さな声で問い掛けた。
一瞬だけ僕の方を見たあなただったけれど、すぐに逸らされる。
「玲弥さん……?」
あなたの名前を呼ぶ――。
「違うよ。壮亮は関係ない」
「嘘よ! そうじゃなきゃ、こんないい話……」
「純菜! もういいから……」
「どうして……?」
あなたの腕を強く握っていた純菜さんの手を、ゆっくりと放す。
行き場を失った純菜さんの手は、ギュッと拳を握り締めていて、目には涙が浮かんでいる。
「純菜……ごめん」
「もういい! 帰る!!」
静かな低い声で謝るあなたに、純菜さんは顔を真っ赤にして言い放つと、その場から走り去って行った。
こんな空気の中で、二人きりになるなんて――正直、気まずい。
僕は、どうすることもできずに俯いたまま立っていた。
「何か、みっともないとこ見せちゃったな……」
「いえ……」
「せっかく来てくれたのに、ごめんな……」
あなたの言葉に、首を横に何度も振ってみせると、少し不安そうに僕を覗き込んでいた表情が、ホッとしたように見えた。
だけど、僕の中では引っ掛かってることがある。
それは――さっき純菜さんが言っていた留学の話――。
「ちょっと休憩しようか? もう少ししたらカフェテリアがあるから」
「はい……」
言われるまま着いていくと、しばらく歩いた所にカフェテリアがあった。
大学って、カフェまであるんだ――。
しかも、広くて解放感があって、緑もたくさん。中には、何人か人もいる。
制服のままで来てしまったこともあり、そこにいる人たちは、興味深そうに僕を見てくる。
「壮亮、何飲む?」
そんな視線には気づいてないのか、あなたは普通に質問してきた。
「あっ、じゃあホットカフェオレを……」
「了解。買ってくから、適当に座ってて」
「あっ、はい……」
それだけ言い残すと玲弥さんは歩き出し、僕は一番奥の窓際の二人掛けの席に座った。
窓の外をぼんやり眺めていると、淹れたてのカフェオレから湯気が出ているカップを、そっと僕の前に差し出された。
「ありがとうございます。いただきます」
「どうぞ」
まだ熱そうなカップを手に取り、ゆっくりと口元へ持っていくと、フーフーと息を吹き掛けてから少しだけ口の中へ含む。
「あちっ……」
わかっていても、やっぱり熱かった――。
そんな僕を見て、クスッと笑うあなた。
そして、足を組みながらコーヒーを口に含んだ。
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