60人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の想い
あなたに想いを告げられてから、僕は毎日考えていた。
僕はあなたのことが好き――
あなたも僕のことが好き――
でも、あなたは留学のために遠くへ行ってしまうかもしれない。
本当は、離れたくない。ずっと一緒にいたい。だけど、あなたの可能性を僕のワガママで奪うことなんてできない。できるわけがない。
わかっているのに、自分の気持ちを面と向かって言えないのは、迷いがあるから――?
考えても考えても、僕は気持ちの整理がつかなくて――気が付くと、明日は家庭教師の日。
学校からの帰り道、僕はいつものように公園の前を通り、家路へと向かっていた。
「壮亮君……」
背後から僕を呼ぶ声が聞こえる。
振り返ると、そこには純菜さんが少し俯き加減で立っていた。
「純菜さん……」
「少し話せないかな?」
「いいですけど……」
今まで会った感じとは、全く違う雰囲気の純菜さん。
いつもは自信に満ち溢れているように見えるのに、今日はずっと下を向いている。
話がしたいという純菜さんと、公園のベンチへ座った。
しばらく僕たちの間に沈黙が続く――
「あの……この間はごめんなさい」
座ったまま深く頭を下げてくる。
「いやっ……あの……」
「本当にごめんなさい……」
突然の出来事に、僕は頭が真っ白になってしまっている。
純菜さんは、頭を下げたまま顔を上げてくれない。
「顔を上げて下さい……」
「けど……」
「もう十分なんで……」
僕の言葉で、ようやくゆっくりと顔を上げた純菜さんは、僕に向かって優しく微笑んだ。
「ありがとう……壮亮君」
「いえ……」
この間の剣幕とは違い、穏やかな空気が流れている。
僕には、何となく違和感のある空気だけど、純菜さんから感じるものに威圧感はなかった。
「私ね……悔しかったの……」
「悔しい……?」
「そう。玲弥君とは幼い時、近所に住んでたことがあって、その時から私はずっと彼が好きだった。幼いながらにドキドキしてたの」
昔を思い出すように、遠くに視線を向けながら語り始めた純菜さんに、僕は静かに耳を傾ける。
「ある日、突然、玲弥君が引っ越すことになって、私はショックで堪らなかった……。だから、ずっと探してた」
「ずっと……?」
僕の質問に、彼女が首を縦に振った。
最初のコメントを投稿しよう!