再び動き出す想い

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再び動き出す想い

 もうすぐ学生最後の試合がある。  毎日練習に明け暮れている僕は、玲弥さんから提案されていた家庭教師の話を両親にするのをすっかり忘れていた。  いつものように家を出て学校へ向かおうとした時――、 「おはよう」  背後から声が聞こえて、心臓が大きく脈を打つ――ゆっくり振り返ると、そこには笑顔で僕を見ている玲弥さんがいた。 「おはようございます」 「練習は順調?」 「はい。順調です」 「試合っていつ?」 「十日後」 「そっか。頑張ってるんだ」 「はい」  何気ない会話――僕には、前から伝えようと思っていたことがある。  高鳴る自分の心臓を抑えながら、話を切り出した。 「あの……試合、観に来てくれませんか?」 「えっ?」  意を決した僕の問いかけに、驚いたように目を丸くしている玲弥さん。  確かに唐突すぎたけれど、会えない間もずっと思っていた。  高校最後の試合は、玲弥さんに観に来てもらいたい――。  今まで、なかなか会うタイミングがなく伝えることができなくて、ようやく言えた言葉だった。 「いやっ、ずっと会えてなかったから言えなくて……。来てもらえたらいいなって……思ってて」  少しテンパって言い訳っぽくなっている僕の説明に、玲弥さんが笑いを堪えている姿が目に留まる。 「何時から?」 「えっ……?」 「試合、何時から何処であるの?」 「あっ、十一時に○○競技場です」 「十一時ね。了解!」  そう言って、玲弥さんが僕の髪をクシャッと撫でてくるから、落ち着かせようとしていた心臓が、また大きく動き出す――。  僕の頭に触れる大きくて細く長い指が、眠っていた僕の感情を蘇らせていく――。  忘れかけていた想いに光が射していく――。  自分の気持ちが大きくならないように、玲弥さんから距離を取っていたのは僕だけど、いつもどこかで想っていた。  そう、忘れようとしていただけ――忘れられるわけもないのに――……。
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