彼女の想い

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「でも、諦められなかった……?」 「そうです」 「そっか……。初めから、私の入るスキなんてなかったってことね。二人はずっと想い合ってたんだから……」 「だけど、僕は一度逃げ出してしまったから……」  奥歯を噛み締めて、小さく拳を握る。  そうだ――僕は、自分の気持ちからも、あなたからも逃げたんだ。 「次は逃げなきゃいいんじゃない? ちゃんと自分の気持ちと向き合って答えを出せば……」 「そんなこと……」 「やる前からできないなんて言わないでよ。離れてたって気持ちが同じなら、今回みたいにまた戻れる日が来る。離れたくないって気持ちもわかるけど、玲弥君の可能性を無駄にしないで欲しい」  わかっている――。  そんなこと言われなくたってわかっている――。 「って、私に言われなくても、きっと答えは出てるはずよね。壮亮君、もっと自分に自信を持ってね。玲弥君は、あなたのことが好きなんだから……」  優しい笑顔で僕に告げてくる。  その表情は、どこかすっきりとしていて、曇りのないように見える。 「玲弥君のこと、ずっと諦められなかったけど、曖昧にされるよりはきっぱり振ってもらえて良かったって思ってる。だから、がっかりさせないでね!」  そう言うと、純菜さんはベンチから立ち上がった。  僕は、自然と顔を上げて彼女に視線を向ける。 「じゃあ、またね。今日は突然来てごめんなさい。話せて良かった」 「こちらこそ。わざわざ来てもらって、ありがとうございました」  僕もその場に立ち上がり、お礼を言った。  純菜さんは、片手を上げて答えると、僕に背を向けて歩き出す。  その姿が見えなくなるまで見送ると、家路へと着いた。  わざわざ彼女が僕と話に来た理由――それは、やっぱりあなたのため――あなたのために、僕に会いに来たんだ。  純菜さんは、今でもあなたのことが好きなんだと思った。  それでも、あなたのために、僕の背中を押そうとしてくれたんだ――。  その気持ちが、胸の奥へと突き刺さる。  どんな思いでここまで来たのかを考えると、僕は逃げている場合なんかじゃない。  きちんと答えを出さなきゃいけないんだ。  そうしなきゃ、何も変わらない――。  あの頃と何も変わらない――。  もう、逃げちゃダメなんだ――。  あなたが僕に向き合ってくれたように、 ちゃんと向き合おうと思った。
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