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本当の気持ち
昨日、眠れないままずっと考えていた。
今日は家庭教師の日。
もう、逃げることなんて出来ない。きちんと話さなくちゃいけない。時間は、刻一刻と迫ってくる。心臓がバクバクしていた。
――ピーンポーン――
インターホンが鳴り響き、あなたが来たことを知らせる。
僕は、ゆっくりと二階から玄関へと向かい、扉を開けた。
「こんばんは」
あなたがいつもと変わらない表情で、優しく微笑んでいる。
その顔を見て、少し肩の力が抜けた気がした。どこか緊張しっぱなしでガチガチだった体――でも、緊張がなくなったわけじゃなくて――あなたのいつもと変わらない表情を見たら、何だかホッとしたんだ。
「どうぞ……」
「お邪魔します。課題はできた?」
「一応……」
「そう……。じゃあ、すぐに見させてもらうから」
「はい」
部屋へ行くまでの階段で、そんなやり取りをしながら、部屋につくと、本当にすぐ課題のチェックが始まった。
その間、僕はあなたの真剣な姿を見つめていた。
この姿を忘れないように焼き付けておきたい――。
離れていても、目を閉じれば思い出せるくらいに――。
そう、僕の出した答えは、あなたがハーバード大学へ行って、大好きな英語を勉強して欲しいというものだった。
だって、あなたはきっと、そのために必死で勉強もして、アルバイトをしながら資金もある程度貯めていたと思うから――。
「うん、OK! だいぶ解けるようになってきたね」
「良かった。玲弥さんのおかげ」
「そんなことないって。壮亮が頑張ってるから」
「確かに、頑張ってるかも……。今までこんなに勉強したことなかったし……」
「壮亮……?」
OKをもらえて笑顔だった僕の顔付きが変わったことに気付いたのか、あなたは小さく名前を呼んできた。
それなのに、顔をあげることができずに俯いたままの僕――。
決めたはずなのに――。ちゃんと伝えようって、決めていたのに――。自分の手が震えているのを感じていた。
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