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「どうかした?」
様子がおかしいと思ったあなたが、覗き込んでくる。
「あの……僕……」
「何?」
なかなか上手く言葉を言い出せない僕に、優しい表情を向けて言葉を待ってくれている。
言わなきゃ――自分の気持ちをきちんと伝えなきゃ――。
「この間は、突然のことで頭が混乱してしまって……。あれからずっと考えてたんだけど、なかなか答えも見つからなくて……」
そこまで言って、僕は一旦言葉を止める。
何から伝えたらいいのか、整理したはずなのに、頭の中は真っ白で――
「壮亮、ゆっくりでいいから」
あなたにそう言われて、僕は深く息を吐いた。
自分の言葉で、ちゃんと伝えよう。
「玲弥さんの気持ち……すごく嬉しかった。僕もずっと、玲弥さんのことが好きだったから……。だから、家庭教師をしてくれるって言ってくれたことも、同じ大学へ誘ってもらったことも、本当に嬉しかったんだ」
さっきまで俯いてた僕じゃなく、真っ直ぐにあなたに視線を合わせながら伝える。
「留学の話を聞いて、正直戸惑った。離れたくないって思った。でもね、僕は玲弥さんに夢を諦めて欲しくない。だから、ハーバード大学へ行って勉強してきて欲しいんだ」
「でも……、二年は帰れなくなる……」
あなたの言葉に、僕は首を横に振った。
「僕は大丈夫! ちゃんと勉強して、玲弥さんと同じ大学へ入って、帰ってくるのを待ってるから」
「壮亮……」
「僕を信じて……」
精一杯の笑顔で告げた。
あなたは目尻を下げて、僕を見つめてくる。
「ありがとう……」
小さくお礼を言うと、机の下からそっと僕の手を取って握りしめてくる。
僕も、その手をギュッと握り返した。
「好き……」
「俺も……、ずっと好きだった」
思わず気持ちが溢れ出し、想いを口にした僕に、あなたもすぐに答えてくれた。
とても遠回りしたけど、やっと言えた。
心の奥にしまい込んだ気持ちを、素直に伝えることができた。
お互いの気持ちが通じ合ったのに、すぐ離れてしまうけれど、もう怖くなんかない。
だって、僕はあなたのことが好きだから――。
そして、あなたも僕のことを好きだと言ってくれたから――。
手を握ったまま、僕たちは勉強を始めた。
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