56人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「これ……」
小さく言って、何かを握りしめている右手を差し出してくる。
ゆっくりと手を伸ばすと、掌の上にそっとあなたの手が乗せられた。
「これって……」
「お守り。明日の試験と大学入試がうまくいくように……。俺の代わりに見守ってくれるから」
「うん……ありがとう」
お守りだと僕の手の上に置いたのは、
「 believe in oneself 」
と、書かれたキーホルダーだった。
――自分を信じて――
その言葉が、僕の心へと入り込んでくる。
離れてても応援してくれているって感じられるように、用意してくれたんだと思うから――大切にしよう――。
僕は、手に持っているキーホルダーを、力いっぱい握った。
「僕……何も用意してない……」
「何もいらないよ」
「でも、玲兄は僕に……」
「じゃあ、向こうで頑張れるように充電させて」
「充電……?」
何を言っているのかわからなくてキョトンとしていると、あなたが立ち上がり、僕へと近づいてくる。
ゆっくり隣に腰を下ろすと、フワッと優しく体を包み込まれた。
一瞬で、あなたの匂いが広がる――柔らかくて温かい感触――ドクンドクンと伝わってくる鼓動――全てが僕をドキドキさせる。
「これが充電……?」
「そう……。離れてても壮亮を近くで感じられるように……」
あなたの腕に力が入り、キツく抱きしめられる。
僕も、あなたの背中へと腕を回した。
僕があなたの鼓動を感じているように、きっとあなたも僕の鼓動を感じている。
そう考えると恥ずかしいけれど、嬉しかった。
「玲兄、向こうで頑張ってきてね」
「うん」
「僕、ここでずっと待ってるから」
「うん」
「ずっと、待ってる……」
泣かないと決めていたのに――涙が頬を伝う――。
寂しい別れにならないように、笑顔で送り出そうと思っていたのに――。
抱きしめられている腕が離れ、あなたが親指で僕の涙を拭う。
「泣かないで……。すぐ帰ってくるから……」
「うん……」
「大好きだよ壮亮……」
そっと唇が触れる。
僕は静かに目を閉じた――。
*************
次の日――。
僕はセンター試験を受けるために会場へ向かう。
もちろん、あなたに貰ったお守りのキーホルダーをカバンの中にこっそりと偲ばせながら――。
あなたは、僕が家を出るよりも先に空港へと出発していた。
そうなるように飛行機も選んだんだと思う。
「行ってきます」
玄関を出て、あなたの部屋を見上げて言うと、僕は歩き出す。
きっと大丈夫――。
僕にはあなたがついているから――。
「行ってらっしゃい」
今度は空を見上げて言った。
見送りには行けないから、ここから送り出すよ。
離れてても僕はいつもあなたを想うから――。
最初のコメントを投稿しよう!