合格発表

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「えっ……? どう……し……て?」 「壮亮、合格おめでとう」  幻覚を見ているのかな……?  僕の目の前には、アメリカへ行ったはずのあなたが笑顔で立っている。  首を傾けて両目を擦ってから、もう一度確認した。 「玲兄……?」  やっぱり、あなたが目の前にいた。 「どうしても直接言いたかったから……」 「うそ……でしょ……」 「良かったね、壮亮」 「うん……」  春に降る雪の中で、僕の大学受験が幕を閉じた。  目の前には、大好きなあなたがいて、優しく微笑んでくれている。  僕は、そんなあなたに向かって歩き出す。 「驚いた?」 「驚かないわけないじゃない……」 「ふふっ……大成功ってやつ。でも、これで留学終わるまでは帰って来れないから……」 「うん……ありがとっ」 「じゃあ、お祝いに……」  そう言って、あなたが僕の耳元で小さく囁いたのは―― ――4度目のキスしよう――  その言葉の意味を辿っていくと―― 「あっ、えっ……とっ……」  僕は、言葉にならない声で驚きを隠せずにうろたえる。 「驚いた?」  あなたが、まるで少年がイタズラをした時のような無邪気な笑顔で問いかけてくる。 「もう……玲兄のばか……」 「だって、あの時は……」 「もういいから……。帰ろう」  僕は、あなたの言葉を遮るように言って腕を掴むと、大学を後にした。  あの小学五年生の夏休み。  病院で眠るあなたにキスをしたことを、気づかれていたなんて知らなかった。  恥ずかしくて腕を掴んで歩き出したのは僕なのに、気がつくと手を繋いであなたが僕の前を歩いてる。 「ねえ、玲兄……」 「ん?」 「気づいてたの?」 「何が?」 「僕が……」 「キスしたこと?」 「うん……」  歩いている足が止まり、あなたが振り返ると、僕に向かってニッコリ微笑む。 「あのキスで目覚めたから……」  真っ直ぐ見つめられたまま答えてくれた。  まるで白雪姫のラストのシーンのような話だけど、きっとそれが真実。  そのまま、あなたの顔がゆっくりと近づいてきて、僕の唇にあなたの唇が重なった。  僕たちは、4度目のキスをした。  次の日――。  あなたはゆっくりする暇もなくアメリカへと戻った。  今度は、きっちりと空港まで見送りに行って、今はその帰り。  離れる瞬間まで、ずっと手を繋いでいて、まだあなたの手の感触が残っている。  僕のために貯金をはたいて帰ってきてくれたこと――知らなかったとはいえ、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちでいっぱいだ。 「玲兄……ありがとう」  空に向かって言うと、僕はニコッと笑った。
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