高校最後の試合

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高校最後の試合

 いよいよ試合当日。  緊張しているせいか、朝早くから目が覚めた僕は、ランニングをするために、近くにある緑地公園へ向かおうとしていた。 「もう帰る!」 「おい、ちょっと待てって!」  突然聞こえてきた会話――。  今の声――……聞き間違える訳がない。  玲弥さんの声だ――……。  ふと視線を向けると、そこには背を向けて歩き始めている女の人の腕を掴んでいる玲弥さんがいた。  僕は、その場から動けなくなってしまう――。  足が鉛のように重くて、逃げ出したいのに動かない――。 「離してよ!」 「離せるわけないだろ!?」 「私のことは放っておいて!」 「無理だって……とにかく落ち着けよ」  喧嘩――だろうか? 二人は激しく揉めている感じがした。  僕の胸がちくりと痛む――……。  神様は意地悪だ。  何も今日みたいな日に、こんな場面に遭遇させなくてもいいのに――……。 「何で……」  思わず言葉が漏れる――目の前からは、二人の姿が消えていた。  玲弥さんは、走っていく女の人を追いかけていなくなっていた。  その場にしゃがみ込んでしまう――。こんなに苦しいなんて――。  僕は、まだこんなにも玲弥さんのことが好きなんだ――。  結局、ランニングをすることなく家に帰ると、朝食を食べて、試合会場へ向かった。  きっと、玲弥さんは来ないだろう――。  高校最後の試合に勝つため、必死で練習してきた。その成果を発揮するチャンスなのに――僕たちのチームはボロボロ。  パスワークも上手く行かない、ゴールも決まらない――気がつけば、後半も残すところ十分。2ー0で負けている。  悔しい――……  あんなに一所懸命練習してきたのに――…… 「こっち、パス!」  最後の最後でチャンスが回ってきた――僕は、全力でフィールドを駆けていく。  味方から絶好のパスが飛んできて、そのボールをゴールまで運ぶ――。  必ず決める――…… 「うわぁっ!」  ゴールまであと少しというところで、敵のブロックに合ってしまい、僕は勢いよく転倒した。 ――ピーッ――  大きく笛の音がなり、審判が手を挙げている。  ファールだ!  この場所からゴールまで数メートル――絶対外さない――……。 「ふぅ……」  目を閉じて、大きく息を吐く。そして、僕はゴールへ向かってボールを蹴った。 ――うわぁーっ――  という大歓声と共に、ボールは一直線――キーパーの手を弾いて、ゴールを決めた。 「よっしゃー!」  ガッツポーズをして跳び跳ねると、次々に仲間が僕の元へと駆け寄ってくる。  残り時間わずかで、一点返した。  喜びもつかの間――、試合はまだ続いている。  このまま勢いに乗れば、ロスタイムで奇跡が起こるかもしれない。 「よし、最後まで気合い入れてこー」  僕の掛け声で、一斉に試合体制へと戻る。  頼む――……奇跡よ起これ! ――ピーッ――  試合終了を告げるホイッスルが鳴った。  負けた――……  でも、不思議と涙は出なかった。それはきっと、諦めずに最後まで戦い抜いたから――。 「ありがとうございました!」  整列して、締めの挨拶をした。  本当に、学生生活最後の試合。  結果は残念だったけれど、精一杯に力を出し切った。玲弥さんには見てもらえなかったけれど、悔いはない。
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