家庭教師が決まった日

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家庭教師が決まった日

 家に帰ると、僕はリビングで料理を作っているお母さんの元へ向かい、家庭教師の話を切り出した。 「お母さん……あのね」 「あっ、壮亮。おかえりなさい! 試合、お疲れさま」 「うん、観に来てくれてありがとう」 「残念だったけど、三年間、良く頑張ったわね」 「うん」  僕の姿を見つけるなり、元気に笑顔で話し掛けてくる。 「何か話でも?」 「うん、あのね……玲弥さんが大学へ行くための勉強を見てくれるって言ってくれてるんだけど……」 「玲弥くんが!?」 「そうなんだ。家庭教師してくれるって」 「まあ、素敵!! 玲弥くんが見てくれるならお母さんも助かるわ」 「じゃあ、いいの?」 「もちろんよ! 大歓迎だわ!」  ひとつ返事でOKが出た。迷うことなく、即決まり。お母さんは、僕が勉強することに大賛成の模様。  今までは部活一筋だっただけに、勉強に関しては全くのダメ人間。そんな僕に勉強を教えてくれるなんて人、おそらく誰もいないだろう――……。  玲弥さんだって、僕の実力を知ったら嫌になるかもしれない。 「じゃあ、頼んでおくから」 「はーい」  上機嫌で返事をすると、お母さんは再び料理に取り掛かかっている。  僕は、自分の部屋へ駆け上がっていくと、ポケットの中に入っている名刺を取り出した。  手に持ったまま、ふと窓の外を見ると、玲弥さんの部屋に灯りが点いている。  僕は、名刺を机の上に置き、窓際へと向かいゆっくり扉を開け、「玲弥さん!」と少し大きな声で、あなたの名前を呼んだ。  しばらくして、カーテンの向こう側から玲弥さんが顔を覗かせる。  僕の姿を見つけると、少し驚いた様子を見せたものの、すぐに窓を開けてくれた。 「壮亮、どうした?」 「お母さんがね、家庭教師OKだって」 「良かった。じゃあ、いつからにする?」 「僕はいつでも……」 「そっ、なら来週からにしようか?」 「はい」  あっという間に話が決まっていく――。本当に僕の家庭教師をしてくれるんだ。  ダメな奴だと思われないように、頑張らないと! 「もしも都合が悪くなったりした時は、スマホに連絡してもらえればいいから」 「はい、わかりました」 「じゃあ、来週からよろしく」 「こちらこそ、よろしくお願いします」  窓越しに会話をする僕たち。  正式に玲弥さんが僕の家庭教師をしてくれることになった。  こうして話すのは、もう何年ぶりだろう? 昔はよく、寝る直前まで話していたのに――。  いつからかこの窓が開くことはなくなっていた。でも、またこうして話せる日が来るなんて――。  もう一度、玲弥さんに恋をする日が来るなんて――思っていなかったんだ。
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