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私は小学生の頃から文章を綴るのが好きだった。その代わり人と関わることは苦手で、嫌われてもいないが好かれてもいない人間だったように思う。
そんな私だったが、彼女にだけは興味があり、惹かれていた。
小学三年生のクラス替えで初めて同じクラスになった森崎雅美。彼女は誰にでも優しく、賢く、そして美しかった。
幸運なことに彼女の席は私の隣で、話下手な私を気遣ってくれる彼女のおかげで他愛のない話をする仲になった。
ある日、休み時間に雅美がノートに何かを書いているのを見かけた。授業はまだ始まっていないのに何を書いているのか。
何気なく覗き込むと彼女は咄嗟に隠したが、もう見られているわよねと観念したように、書かれているものを見せてくれた。
「私、文章を書くのが好きで、思い浮かんだ文章や単語があるとノートに書き留めているの。物語にしたものや文章だけのものが、このノートの他にもたくさんあるのよ」
私も物語を書いているのだと打ち明けると彼女は喜び、それからは休み時間に互いのノートや何かの紙の隅に書いたようなメモなどを見せあうようになった。
他に私達と同じように文章を書くことが好きな人も居なかったので、なんとなく周りに秘密になってしまったが、小学生の頃から始まったこの関係は高校になっても続いていた。
聡明な雅美は有名進学校へ、私は地元の公立高校へ進学した。しかし休みの日や下校の時間が近い時などに待ち合わせて、互いの文章を見せ合う。
駅裏の人気のない公園にポツンとある古いベンチが私達の集合場所だった。
雅美は天才だった。
私がいつも見せてもらう文章はほぼ数行の文章や詩といったものばかりだったが、雅美の文章には、善と悪、生と死、明と暗、全てに品があり、言葉の言い回し、感情表現、文法……ちょっとした走り書きのようなメモにさえ美しさを感じる。
「長編や短編の小説をまとめたものはノートにまとめて家に置いてあるの。いつかその中の一編でも良いから世に出してみたいな」
と、雅美は恥ずかしそうに笑った。
私はもっと彼女の文章が読みたくなり、書き溜めたノートを家から持ってきて読ませて欲しいと彼女に頼んだ。
「誰にも見せていないのよ。大学生になったら色々な賞に応募しようと思っているから。だから誰にも言わないでね。二人だけの秘密よ」
私は誰にも言わないと約束し、夕方改めてこの場所までノートを持ってきてもらうことにした。
午前中に会っておいてまた夕方に会いたいなど、随分と無茶なことを言ったなと思うが、私はどうしても読みたかったのだ。すぐに。読む側の興味を惹きつけてやまない魅力が雅美の文章にはあった。
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