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「手を出せ」
警官の鋭い目つき。女に、拒否という選択肢はなかった。
警官は、胸ポケットから小刀を取り出した。鞘からすっと抜くと、女の手に近づけていく。女は斬られるとでも思ったのか、目をぎゅっと瞑り体をこわばらせた。だが、女がおそるおそる目を開けてみると、手首には切れた縄がはらりとぶら下がっていた。
「え?」
不思議そうな顔をする女に、警官はこう言った。
「近藤局長には世話になった。目を見ればわかる。確かにあんたは局長の娘御なんだろう。……これを」
警官は再びポケットから何かを取り出した。今度は、財布だった。女の手から縄を回収すると、代わりにその財布を押し付けるように握らせた。
「多くはないが……これを足掛かりに。せめて、局長の分も幸せに生きてくれ」
警官は、くるりと踵を返した。
「待って、あんた一体……」
「藤田五郎。警察官が全員維新志士とは限らない」
藤田と名乗った警官は、雑踏の中に消えていった。
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