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不遜な態度を見せる女だが、警官も警官で、それに激高するわけでもなく淡々と何やら調書に記入している。
「では質問を変えよう。なぜこんなことをした」
「金がないからに決まってるだろう。あたしゃね、そこそこ売れた芸妓だったのさ。芸は売るが身は売らないと決めていた。それがあたしの価値を高めた。けどね、足をやっちまって、クビになったのさ。どっちみち、そろそろトウが立って売れなくなる頃合いだ。潮時だったってわけ」
確かに、かつては売れっ子だったのだろうと思わせる風格のようなものが女にはあった。一見するとみすぼらしい風体だが、きちんと結い上げられた髪には乱れがないし、着物だって、色あせてはいるもののかつては鮮やかな朱色をしていたのだろうと察しがつく。刺繍も見事だ。
「それで食い扶持を稼ごうとしたのか。男たちを騙して」
女は、わずかに溜息をついた。
「そうだよ。なんでこのあたしが汚いオヤジどもと寝なきゃならないんだ。あたしを買うって決まったら、さっさと眠り薬を飲ませて、有り金もらってずらかるのさ」
「その言い方だと、やはり他にもやっているな」
警官の追及に、女は肯定も否定もしなかった。
「さて、名前を聞きそびれていたな。なんという名だ」
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