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夜鷹の名
「お前か。噂の夜鷹は」
警官は煙管の煙をふーっと吐いた。
「へえ、あたし、有名人なのかい」
女は悪びれもせず、にやりとした笑みさえ見せた。
この取調室には二人きりしかいない。窓はなく、女が逃げるとすれば扉からということになるが、扉の外にも帯刀した警官がいる。強行突破したところで捕まるのがオチだ。悪くすれば斬り捨てられて命もないかもしれない。
扉には小さな格子窓がついており、外の警官にも話は聞こえる。女を取り調べているこの警官だけなら色仕掛けを駆使して言いくるめられるかもしれないが、外に立っているもう一人には通じないだろう。
観念したように、女はだらりと背中を丸めた。
警官は調書に視線を落とした。
「先月から少なくとも五件、訴えが出ている。齢二十歳くらい。その夜鷹を買って事に及んだと思ったら、いつの間にか朝になっている。で、有り金全部盗られている、とな」
「あたしゃ代金をいただいただけだよ」
「夜鷹の相場はせいぜい一銭と聞く。有り金全部はぼったくりだ。全部で何件やってる」
「さあね。今回のは認めるよ。現行犯だし。でも、それ以外は知らないね」
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