春を迎える ーside 海ー

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 今日の頭の中の俺はやけにしゃべる。自分でもびっくりするぐらい浮ついている。年越しを待つ、不思議と明るい夜のせいなのか。いや、多分、理樹のせい。片思いの相手とふたりきりで会うだけでも浮かれるのに、ましてやこんな特別な時間を今年も一緒に過ごせるのだから。  あと十五分。時計を確かめたときに玄関が開いた。 「いつからいたの」  理樹が門の外に走り出て来た。もこもこダウンにざっくりと編まれたニットのマフラー、ニット帽。にやけそうでやばい。着ている服は本当にメンズなのか。 「今。お前だって早すぎんだろ」 「鼻、赤い」  門扉を閉め隣に立った理樹を俺は直視できず、マフラーで顔を隠した。 「理樹、突っ立ってると寒い」 「行くか」  ふっと笑う笑顔が憎らしいほどかわいい。  理樹が好きだ。そればかり考えて、息苦しい。  深夜の静けさと人の起きている気配が入り混じる住宅街を歩いた。もうしばらく行くと長蛇の列が連なる大通りに出る。理樹の吐く息がぽつぽつと灯る街灯の下で白く舞う。 「さむ。ダウンでも寒い」 「理樹、細いからな」 「細さは関係ない」 「あるんじゃねえ?」  寒いんなら抱きしめたいんだけど。相変わらず脳内の俺がうるさい。会話が途切れ、アスファルトを踏むふたり分の足音だけが響いた。  理樹は新年にどんな願い事をするんだろう。俺は決まっている。来年も同じクラスになりたい。同じ大学に行きたい。でもそれよりも、理樹と付き合えたら。……それって理樹の彼氏になりたいってことか?  手袋をはめた手で口元を押さえる。理樹は俺の変化に気づいていない。幸か不幸か、こいつは呆れるほど鈍感なのだ。  はっきりとした自覚を突きつけられて、俺の頭は彼氏というワードで埋め尽くされてしまった。俺は、理樹の彼氏になりたい。理樹の彼氏に。鈍感なのは俺だ。好きと付き合うが今まで直結してなかった。
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