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どこかからテレビの賑やかな音が漏れ聞こえてくる。イヤーマフをしていても耳に届くぐらいだから、結構大きな音だ。年が明けたのだろうか。
「……お前が好きだ」
ふいに隣にいた理樹が言った。いつもより細い声で。
一気に心臓が全身を打つほどに鳴りはじめた。
俺は理樹のほうを見られなかった。声も出ない。停止しかけた思考の片隅で、おしゃべりすぎる俺が答えろと迫る。早く、答えろ。
「俺も好きだ」
理樹が立ち止まった。おそるおそる振り返ると、理樹が茹でたてみたいな真っ赤な顔で俺を凝視していた。
「……俺も、って?」
意味がわからない。
「理樹が……お前が好きだって……」
「言ってない。どっかのテレビの声は聞こえたけど」
「は?」
待て。俺は今、最大級にやってはいけない間違いを犯したのか。
「うそ、空耳かよ」
顔が赤らむのを止められない。ごまかしようがなくて素早くマフラーで隠した。
「理樹、今のなし。忘れて」
一体何を聞いて間違えたんだ。後ろから自分のケツを思い切り蹴り飛ばしてやりたい。
理樹が俺を好きかもしれない、それがただの期待に過ぎなかったら、もう理樹に顔を合わせられない。初詣どころじゃない。新年の願いを祈っている場合でもない。全部が消えてなくなるかもしれない。今の関係さえも。
どんどん寒い方向へ傾いていった。もう実際の寒さなど忘れていた。理樹は何も言わない。俺は最悪の年明けになることを覚悟した。
「言ってないけど、頭の中で言ってた」
理樹が俺の腕を掴んだ。
「俺も……」
うわずった声で口をぱくぱくさせている。
「海が、す……好きだ」
うつむいた理樹が頭から蒸気が吹き出しそうなほど赤面している。
今度は俺が言葉を失うほうだった。
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