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東雲と言い合いになっているところを、化粧室から戻ってきた末広に見られてしまった。 ーーやばい。   やばい。   いや、大丈夫だ。   冷静になろう。 きっと、東雲は口を挟まない。 言い返す隙を与えなければいい。 「……あ、スマホ、落としちゃったの拾ってくださってありがとうございました。数日前にフィルム貼り替えたばかりだったのに、少し割れたのがショックで、子どもみたいに駄々こねてしまって、失礼しました。お連れの方、見つかるといいですね。では、わたしはこれで。行こ、柊くん」 「あ、あぁ。なんだかよくわからないけど、失礼します」 「……」 わたしは早口で切り抜け、末広の腕に自分のを絡めてこの重苦しい場所から逃げ出した。 “百年の恋も冷めるようなできごとがあれば、ワンチャン諦めてもらえるかも?” きっと不可能だと思っていた、末広と東雲のふたりを鉢合わせさせることが、まさかこんな形で叶うなんて思いもしなかった。 これが、東雲にとって、百年の恋も冷めるようなできごとと認識される、わずかな期待を願って。
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