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序
「おれと付き合ってほしいんだけど」
中学2年の、夏休みに入る少し前。
放課後、忘れ物を取りに急いで教室へ向かったところを呼び止められたわたしは、生まれて初めて交際の申し出というものをされた。
「別にいいけど」
「えっ、まじで?」
その男、同級生の末広はとても驚いた顔をしていた。
彼は隣のクラスのカースト上位グループに所属している、いわゆる陽キャだ。
そんなひとが、わたしのような陰キャと交わることなどなく、おおかた罰ゲームか賭けに利用されているのだろうと思った。そして、その反応を見るに、彼は”断る“に一票入れたのだろうと察する。
「あー、ごめん。断った方が都合がいいならそうするけ、ど……」
「めっちゃうれしい。そんなに接点なかったし、おれみたいなタイプきらいかと思ってたから……まじでうれしい」
訂正しようとしたら、末広がわたしを抱きしめてそう言った。
まさか、嘘じゃなかったなんて。
思わず「本当にわたしでいいの?」と訊いてしまう。
「いいも何も……やっぱりおれのこときらいか?」
「いや、そんなことはないんだけど」
「じゃあ心配することはなんもないよな。付き合うって言ってくれてありがとう。これからずっと大事にする」
「あ、う、うん……」
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