今日見た夢から妄想

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今日見た夢から妄想

咲「あれ、あそこ....何かあそこに忘れてる気がする.....」 大きな公園のような森。奥に見える道路の反対側に、何故か昔自分の住んでた、小さなマンションがあった。今は別の人が住んでるはずなのに、何故か取りに行かなくてはならないものがあるような気がして、気がつくとふらっと足がそちらへ向いていた。 中に入り、小さな、小さなエントランスで、靴を脱ごうとする。あれ、ここで靴脱ぐところあったっけ?そんなことを思いながら靴を脱ぎ、エントランスから廊下に上がると、ふいに 「紅鏡駅は歩道橋を渡ればいけますか?」 と聞かれた。誰もいないと思っていたからびっくりして振り返ると、痩せ細った、土埃にまみれている制服姿の部活の藤宮先輩らしき人が立っていた。涼し気なスラックスに少し土色の白いYシャツ。しかし、声とか、制服とかが藤宮先輩と違ったため、ただのそっくりさんだと思った。 「え、まあ、おそらく....」 紅鏡駅近くに歩道橋があるのは知っている。ただ、ここから紅鏡駅の間に歩道橋なんてあったかな?と思ったが、なんかもうよくわかんないしそもそもあまり人と話せないのもあって適当に返してしまった。 そして少しして戻ってくると、まだ藤宮先輩らしき人はその場所にいた。外を眺めながら、寂しそうな顔をしていた。 「一緒に行きます?紅鏡駅」 いつの間にかそう話しかけていた。 「え、良いんですか?」 藤宮先輩らしき人はきょとんとした顔でこちらを見た。 「はい、じゃあ行きましょう!」 私はいつの間にか彼の手を引っ張って外へ出ていた。なんでこんな行動に出たのかはわからないけど、どうせ何をすれば良いのかわからないなら面白い方に転がっていくほうがありだと思ったのだろう。 外に出ると、秋の紅葉がはらはらと落ちていた。くしゃ、くしゃ、と足元の葉っぱを踏みながら、道路へ向かう。目で見て大体100mくらいなのに、妙に遠く感じた。 「私は、八十年前の十六歳なんですよ。」 前を静かに見ながら、彼は言う。いつの間にか手を繋いでいたが、何故かこの時は恥ずかしさとか、そういうのはぱったり消えていた。 「そうなんですね。」 「信じられないでしょう。」 「どうでしょうね。」 何故か信じられるような気がした。後ろでは少し悲しげなピアノソロのBGMが流れている。きっと、戦時中の地縛霊か何かだろう。そう悟らせるような雰囲気だった。 少し道路を歩いてから。私達の間にはさっきの会話から沈黙しか続いていない。ただ、妙にこの沈黙が心地よかった。繋いだ手から伝わってくる温かさは、まるで彼の心を覗いているような、そんな感じがした。 「もうすぐ、紅鏡駅ですよ。」 「あ、これ...。」 彼の足が止まった。彼の視線の先にあったのは、桜の木だった。 「”あの日”も、桜が咲いてたなぁ...。」 静かに桜を眺める彼の目は、どこか寂しげな雰囲気を醸し出していた。 そして、また歩き出す。 「着きました、紅鏡駅です。」 そういって私が彼の方を見ると、彼は静かに涙を流していた。 「あぁ、ここまで...日本は...。この街は....。そうか、そうか....。」 メガネをずらして、静かに涙を拭く。 「あれ、見てください。」 私はそう言って目の前にある平和の輪を指さした。 「あれは戦後、二度と同じ過ちを繰り返してはならないとされ、建てられた輪です。今では市民の憩いの場です。」 「これから二度と、私と同じ苦しみを味わう人が現れないことを願うね。」 そう言って彼は静かに微笑んだ。 その時、強風が二人に当たった。反射的に目を瞑る。風が収まって隣を見ると、いつの間にか彼はいなくなっていた。そして午後二時を知らせる鐘と同時に、知らないお爺さんの平和を訴える声が聞こえてきた。 「私の兄は今日、四月十二日にここ、紅鏡付近で起きた空襲で、家の下敷きになって私の目の前で死にました。」 四月十二日。聞いたことがある。この街で空襲が起きた日。戦争という恐ろしいものが、たしかにここにもあったということだ。 「成仏、してくれたかな....。」 私が昔住んでいたマンションも、昔はアパートだったと聞いたことがある。しかし空襲で潰され、しばらく農地になったあと最近マンションになったらしい。 きっとその時に成仏しきれなかった彼が、私の身近な人の見た目になって現れてくれたのだろう。そう思うと自然と涙がこみ上げてきた。 いつこの平穏が脅かされるかなんてわからない。あの大戦から八十年ほど経った今も、海を超えた遠い国で戦争が起こって、沢山の人が彼のように成仏しきれていないのだろう。 私一人じゃできることなんて無い。でも、私みたいに平和に対する意識を持つ人が増えてくれれば、世界は少しでも平和になるのではと思った。 午後の昼下がりの駅前。桜の花びらと共に、平和を訴えるお爺さんの声が、少しでも多くの人に届きますように。そう思いながら平和の輪を眺めていた。 「チャン...さきちゃ....咲ちゃん!!」 そう聞こえたのと同時に頬を軽く引っ叩かれた。 「いっだあ?!」 「やっと起きた...もうすぐ部活始まるよ?」 呆れたような表情で私に言ったのは同じ部活の同志、高橋さんだった。 「う、うん....。」 周りを見渡すと、いつもの音楽室の光景が広がった。そうだ、部活が始まるまでの待機時間、隣で会議してるから喋っちゃだめで暇だったから皆で机でふて寝してたんだった。 起きてる人と寝てる人がまばらにいる。高橋さんは色んな人を起こしに行ってるらしく、今は申し訳無さげに、同じ机に頭を寄せ合って寝ている部長さんと副部長さんを起こしている。彼女、朝は弱いと聞いていたが逆に言えば朝以外は強いらしい。だから昼寝も一番に起きたのだろう、そう思ってると田中先輩と藤宮先輩も同じく同じ机に頭を寄せ合ってそよそよと寝ているのが見えた。そこに高橋さんが間髪入れず起こしにかかる。 多少の嫉妬を交えた目で眺めていると、眠そうな二人の声が聞こえてきた。 「なんか変な夢見たんだよね。藤宮みたいな人と一緒に紅鏡駅に行く夢。」 「なにそれ、紅鏡駅で何したの?」 「その人が消えた。」 「は?」 それを聞いて私は即座に田中先輩と藤宮先輩の方を見た。それに反応して驚く二人。 「田中先輩も藤宮先輩みたいな人の夢見たんですか...?」 椅子から立ち、聞きに行く。 「う、うん。何か平和について考えさせられる感じ。」 「....まさか、その夢の日付って四月十二日ですか?」 「え、そうだけど....。」 きょとんとした顔でこちらを見る田中先輩。 「私も同じ夢を見たんです。」 「え?」 「こっわあ」 そう暴露すると、田中先輩は両手を口元に当てて驚き、藤宮先輩はドン引きしていた。 すると、窓の外から桜の花びらが入ってきた。偶然にも花びらが私の手の中に入った。 ちなみに、窓の外の桜の木は既に青々とした葉っぱが太陽光を反射している。 「桜...」 「こうやって平和について考える人が増えてくれたら、世界は少しだけ優しくなれるのかもしれませんね。」 「そうだね。」 そう言って二人で微笑みを交わす。田中先輩は、笑う時に先輩から見て右手側にあるボブの髪を耳にかける癖がある。 「じゃあそのためにはプと北のあの人をぶちのめさなきゃね」 「一般市民にできることじゃなくない?」 藤宮先輩が言うと、田中先輩が即座にツッコんだ。 (あの人、成仏してくれたかな....。) 夢だとわかっていても、やっぱり夢だと思えなかった。まるで、あの人が私達に夢を見せていたような、そんな気がした。 「はいみんなー、いんろー!!」 眠そうな声で部長さんが叫ぶ。時計を見ると、もうすぐ部活開始時間だった。 「いこ、花坂さん、藤宮。」 「はい!」 「おう」 手のひらに乗った桜の花びらを握りしめ、皆の方へ向かった。 ふいに窓の外から微笑みかけられている気がした。窓の外を見るが、何も無い。 「花坂さーん」 副部長さんの声が響く。 「あ、ごめんなさい」 そう言って列に入る。 窓の外では桜の花びらが風に乗って空へ羽ばたいていた。 #青い声
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