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自分はしたい事を我慢してきた。
だから自分を解放している連中が許せない。
ましてそのオーディションでチャンスを掴めば大きな金額ではないかもしれないが、多少の収入が見込める。
一人暮らしの彼はそこまで収入に困っているわけではない。
だがオーディションで自由奔放に蛮勇を奮っている連中が成功し、収入を得られるのがどうしても許せないのだ。
そして彼はただ、ただ何者かに成りたかった。
ほんの僅かでもいい。
何者かになり、何かを残して死んでいきたかった。
彼はキザに睨んでいた缶酎ハイを開けて、喉を鳴らして飲み込んでいく。
「ぶはぁ!!ちきしょう!!ふ…ざ…け…」
目が回る。
元々そこまでアルコールに耐性が無い彼の視界は激しい渦に飲み込まれていく。
闇…
渦巻いている事だけはわかる。
だがそこは闇…
黒い。
暗い。
静かだ。
いや、静かではない。
うるさい。
うるさい。
何の…
突然彼の視界が開ける。
何の声なのだろうか。
「うぁあああ!!」
彼の意識がもう一度遮断されるその刹那、見た光景はがっちりと握り締められたオープンフィンガーグローブだった。
完
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