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Prologue
【トウサツ】
ネイビーのセーラーカラーになびく
ボルドー色のスカーフ。
スラリと伸びるしなやかな手脚。
探し求めていた制服の女神。
── ついに見つけた……俺の運命の女。
雰囲気が美人な髪の長い女に
誤魔化される男はたくさんいる。
だが彼女はどうだ!
化粧という添加物にまみれた
そんなまがいモノの女達など
足元にも及ばない圧倒的な美しさ。
不条理な世の中も
理不尽なルールも
まだ何も知らない無敵な少年みたいに
凛として意思が強そうな目鼻立ちが
ロングヘアの前髪から見え隠れしている。
躍動する生がほとばしっているかのような
力強い美しさだ。
彼女の秘密を、どうしても知りたい。
彼女自身もまだ気付いていない
……そんな秘密を。
学生達やサラリーマン等があふれる地下街。
それぞれが忙しなく帰途を急ぐ夕暮れ刻。
サグラダファミリアが完成したとて
永遠に未完成なままだろうと
噂され続けるハブ駅の雑踏の渦の中
俺、芥田伊織は何気なくケータイを
自分の顔の高さへと持っていき
まるで地図アプリでも確認するような
そんな素振りで獲物に向かって
シャッターを切った。
── 駄目だ。
ここからじゃ遠すぎる。
エキストラが映り込み過ぎるんだ。
緊張と興奮で小刻みに震える手を
俺は抑えることができない。
── 大丈夫……
ターゲットはまだ気付いてない。
もっと近く。
もっと近くで撮ってみせる。
逸る心を抑えながらも
距離を取りつつ女神の背後に付く。
黒髪を翻しながら障害物のような人の波を
慣れた様子で軽々とかわすターゲット。
俺はチリチリとした焦燥感に
神経を炙られるようなジレンマを感じた。
人混みをよけながらケータイを握りしめる。
── マズイ。
これじゃ距離が開き過ぎだ。
逃げられてしまう。
しまった。
そこの角を曲がるのか。
クソ見失うものか!
そこの角を曲がれば狭い階段。
上り切ればバスのロータリーに出る。
万が一バスに飛び乗ってしまえば
完全に逃げられてしまう。
ここで見逃したらもう二度と
巡り逢えないかもしれない。
ピンチではあるが狙ったアングルで撮れる
チャンスとも言える。
危険な現場に踏み込む
刑事さながらの緊張感を体に貼り付け
ケータイ片手に俺は小走りで
階段へと続く角を勢いよく曲がる。
慌てて角を曲がったそこに彼女はいた。
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