第18話 当日と祝杯

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 互いに舗道を歩み寄る。  「村瀬さん、デザイン部との打ち上げは楽しかったですか? 」  「はい、お陰さまで。でも、支店長は私のせいでお酒を飲まなかったんですか? 」  「まぁ、それもありますけど」  「タクシーで帰るなら、飲んでも良かったじゃないですか? 」  「いろいろ大人の事情ってものがあるんですよ。村瀬さん、このまま帰りますか? それとも僕と一緒に飲みますか? 」  肩を並べて歩きながら藤島が遠慮がちに奏に尋ねた。  「え~! せっかく酔っぱらわないように頑張ったのに、今から飲むと私、泥酔まっしぐらですよ、いいんですか? 」  藤島の次のことばをどきどきしながら待った。  「明日はお休みなので、構いませんよ」  「本当にいいんですか? また私の知らない武勇伝が一つ増えるかもしれませんよ」  「今さら、武勇伝が増えたところで気にしませんよ。僕と飲むのが嫌でなければの話ですが」  その言い方、ずる過ぎる。  そりゃあ、少しでも長く一緒に居たいとは思うけれど、それは危険行為だ。  そんな危険に自ら飛び込んで行っていいのか。  藤島という危険物を扱うには自分は未熟過ぎる。  そんな思考が頭の中をグルグル回ってるうちに、藤島がさっとタクシーを止めた。  藤島が奏と乗り込むと運転手に行き先を告げた。  「長峰町のグリーンヴィラまでお願いします」  長峰町? グリーンヴィラ? そこが藤島のマンションだと気づいた。  「お宅に行くんですか? 」  藤島は黙ったまま返事をせず、窓の外に顔を向けている。  不穏な空気とでもいうのだろうか。  張り詰めた空気の中、運転席から流れる曲よりも、ドクンドクンという胸の鼓動の方が大きく響いていた。  マンションに着くとタクシーが二人を下ろして去って行った。  「行こう、住人と会うと面倒くさいから」  「はい」  言われるままに後ろをとことこ付いていく。  運良く誰にも顔を合わせずホールを通り過ぎた。  エレベーターまで来ると、1階に向かって降りて来ている。  「誰か乗ってると思いますが、会釈だけでいいですから」  藤島が小声で言った。  今まで、何度か部屋を出入りしたけれど、やっぱり夜中に女性と帰って来るのを見られたくないわよね……  エレベーターの扉が開くと家族連れがぞろぞろ降りてきた。奏は背の高い藤島の後ろに立ってエレベーターと反対側に顔を向けた。  藤島が「こんばんは」とだけ言って自分を楯に身体を回して後ろ側から奏がエレベーターに乗れるように動いた。  背が高いから、奏の姿はよく見えなかったはず。さすがヒビキタワーだ。
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