312人が本棚に入れています
本棚に追加
奏はその先の言葉を震えながら待つが、藤島は何も言わない。
「もう質問してもいいですか? 」
「どうぞ」
「それで… 私たちは、関係を持ったんですか? 」
「…… 」
「黙ってないで答えてください」
藤島は目を伏せたまま答えた。
「君が眠るまで抱きしめていたけど…… 一線は越えていない」
「あっ…… もしかして、ムーンリバーの時もですか? 」
「…… あの時もベッドまで運んで、君が眠るまで――」
奏は怒りと羞恥心とで、側にあったクッションを藤島めがけて投げつけた。
藤島はそれを避けようともせずに当たるに任せた。
藤島には何の落ち度もないことは分かっている。
落ち度どころか最悪の事態を回避をしてくれたその分別に感謝するべきなのだ。
それでも、時々フラッシュバックする藤島の手と唇の感触が幻想ではなかったことを悟ると、奏の醜態をこれでもかと言うほど許容してきた男が恨めしかった。
それを知らずに今日まで厚顔で接して来た自分が憎かった。
藤島がすすり泣く奏の側にくると力強く抱きしめた。
「すまない。全て僕の胸にしまっておけばよかったんだろうけど、僕ももう限界なんだ」
藤島が奏の涙を手でぬぐうと、その手を奏の唇に滑らせ親指で優しくなでた。
「あれ以来、僕は君が僕以外の男性とお酒を飲むのが心配でならなかった。酔って他の男性に抱かれやしないかと気が気でなくて」
藤島が奏の目をじっと見つめて続ける。
「君にせがまれたからと言って、お互いに酔って深い関係になるのは嫌だった。酒のせいにしたくない。だから二人とも酔っていないこんな日を待っていたんだ…… だから、正直な君の気持ちを聞かせてほしい」
藤島の熱い吐息に奏は震えた。
「支店長には家族がいるじゃないですか。どんなに好きでも、そんな関係になってはいけないんです」
「妻とは岡山に来る前から離婚の同意ができている。ただ、赴任するのに会社から既婚者であることを要求されて、離婚届けは保留にしている。だから、単身赴任だし、家族も来ない。戸籍の上だけの家族なんだ」
「そんな話をこの私に信じろと? 」
既婚男を好きになった女性が喜んで飛びつきそうな告白に、奏はもやもやしていた。
この人もまた、ゴミ男だったのか…
「多分、既婚者に嘘をつかれてきた君には信じてもらえないだろう。だから、何も話さなかった。君に惹かれてはいたけど、戸籍を抜くまでは上司と部下の関係で居ようと思っていたし、そうする自信もあった。ただ、側で見てるだけで我慢するつもりだったんだ。
だけど、君の気持ちを聞いて抱きつかれた時から、もう気持ちを抑えられなくなった。確かに今、君に信じてもらえる手札は一つもない。君が僕をどこまで信じてくれるか、信じられるかだ」
「本当に信じていいんですか? 」
「もちろんだ。僕は覚悟を決めて君とここに居る。君を裏切ったりしないし、責任もとる」
「本当に本当に…… 」
奏の念押しする言葉は藤島のキスで消されていた。
藤島の放つ色香、低い声、肌から伝わる温もり、奏を求める眼差しが奏の理性をマヒさせ奏の全身を情動が支配していった。
酒には酔ってはいなかったのに、藤島に触れられることで酔っていた。
そうだ、これまでも酒に酔ったのではなく、藤島響希に酔ってたのだと奏は悟った。
★★★★
ベッドの中の上司はあの優しい振るまいとは打って変わって情熱的だった。
粘りつくようなキスをたっぷりと交わすと、奏の全身をゆっくり愛撫しながら一枚ずつ衣服をはがしていく。
舌と唇で奏の形のいい乳房を責め、執拗に快感を与え続けた。
奏のもだえる声がさらに藤島を大胆にさせ、オスになった上司は奏の秘所に手を伸ばし、敏感な所を刺激し指でかきまわした。
その快感に全身が波打って、喘ぎ声なのか悲鳴なのか分からない声を発してしまう。
藤島が自分のモノをゆっくり差し込んでくると、さらに全身が痺れて、奏は彼にしがみついた。
そして、彼のゆっくりと上下する動きが徐々に激しさを増すと、一気に頂点へと連れて行かれてしまった。
「奏、愛してるよ」
藤島が放心状態の奏をやさしく愛撫しながら囁いた。
奏はその甘いことばを胸いっぱいに吸い込んで、息絶えてしまいそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!