第7章 雷雨は恋の記憶と突然に

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『こらっ。だから舌打ちやめなさいっ!お父さんとお母さんに言いつけるわよ』 その言葉に男の子が私を思い切りに睨み上げた。 『ガキ扱いすんじゃねーよ!それに親いねーから!』 『え?』 『その顔めんど。1ヶ月ほど前に事故で死にました。だから誰も叱る人いないし、俺のことなんて誰も気にしてない。どうでもいいんすよ。ついでにその可哀想って顔に書くのやめてほしいんすけど?』 思ってもみない言葉に私は一瞬言葉に詰まった。それと同時にまだランドセルを背負っているような子供が、両親を亡くしてひとりぼっちで寂しい想いをしていることに、ただ胸が痛くなった。 『……そんな事思ってない……ただ……あなたのこと私はどうでもいいとは思わなかった。だから叱ったの……』 『なんだよ、それ』 『あなたと私は違う人間だから……抱えてるのは違う痛みだし気持ちがわかるなんて言わない。ただ、私も父を事故でなくしたばかりだから……ほんの少しだけだけど寄り添えるっていうか。それに……父は姿が見えなくても今でも私を見守ってくれてると思うし、幸せになって欲しいって心から願ってくれてると思うから。だから……きっとあなたのご両親も、あなたに幸せになってほしいと思うよ。それこそ、世界で一番の幸せ者になって欲しいってきっと……天国から見てるから』 男の子は驚いたような顔をしてから俯いた。そしてポタンと地面を湿らせた小さな丸いモノは男の子から溢れた涙だということに気づく。 呼応するようにすぐに空からも涙がポツポツと降ってくる。
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