7人が本棚に入れています
本棚に追加
お嬢様、危険に遭遇する
だいたい、外が危険だから遊べないというけど、何もないわ。
外には薔薇の咲くお庭、しぶきをきらきら上げる噴水、天使の像、色とりどりの小鳥が姿を現す大きな森、それから道に添ってずっと続く大きなポプラの並木の道、その向こうに赤屋根の木造の建物の村々があって、ネコ族とかイヌ族とかゾウ族とか、優しい人ばかり。
屋敷の周りには平和でのどかなものしかない。
危険とか、お約束とかするものなんて一つもないわ。
「あれ?君。こんなところで遊んでるの?」
私がバシャバシャと泥跳ね遊びと、泥人形を作っていると、薔薇の中庭を通りがかった子がいる。
先ほど見た、金の髪の少年だ。友達といっしょに遊んでいるところをまた戻って来たらしい。
「あ・・・・あなたは?」
「僕はジョン」
その時、私の耳はびーんと尖り、ハートはきゅんとなった。
(あ、あれ?)
あれ、おかしい。リアサの体も胸も、どきどきして、心臓がぎゅっと掴まれたみたい。
その少年を見た時から、リアサは全部、おかしくなった。体がばらばらになったパズルのピースみたいで、うまくまとまらないの。
「お嬢さーまー」
「おじょうさーまー」
「ああ、お嬢様、どこですかー」
デミカや私つきの若いメイドたちが、必死で捜索している。
ああ、どうしよう。これ何?どきどきして、胸が苦しくなって、汗も出て、耳もぴーんと立ったままだし、お尻の尻尾も上向きのまま。
変なものを食べたか、強烈な匂いを嗅いだか、前にスカンク族の人に遭遇した時と同じみたい。
「君はここの子?」
私の胸はまたずきゅーんとなった。あろうことか、さらにその少年は私を惑わす微笑みをしたから。
なんだか、病気みたい。これは治療が必要だわ。私、薬を飲まないと行けないのでないかしら。
こんなに我を無くしたり、汗をかいたり、どきどきしたら体がもたないもの。こんなの普通じゃない。
デミカの言うお約束、お母様の言う心配も本当だった。これが危険。村の外には危険が多い。村の人は危険だって、本当だった。
ああ、これしちゃだめ、これしなきゃだめ。私が大切って言うけど、私ってもう、危険に遭遇しちゃった。なぜ、こんな危険なものに遭遇しちゃったんだろう?ああ、危険に近づかなきゃ良かった。
早く家に戻って、薬。デミカ、薬よ。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!