お嬢様、危険に遭遇する

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

お嬢様、危険に遭遇する

 だいたい、外が危険だから遊べないというけど、何もないわ。  外には薔薇の咲くお庭、しぶきをきらきら上げる噴水、天使の像、色とりどりの小鳥が姿を現す大きな森、それから道に添ってずっと続く大きなポプラの並木の道、その向こうに赤屋根の木造の建物の村々があって、ネコ族とかイヌ族とかゾウ族とか、優しい人ばかり。  屋敷の周りには平和でのどかなものしかない。  危険とか、お約束とかするものなんて一つもないわ。 「あれ?君。こんなところで遊んでるの?」  私がバシャバシャと泥跳ね遊びと、泥人形を作っていると、薔薇の中庭を通りがかった子がいる。  先ほど見た、金の髪の少年だ。友達といっしょに遊んでいるところをまた戻って来たらしい。 「あ・・・・あなたは?」 「僕はジョン」  その時、私の耳はびーんと尖り、ハートはきゅんとなった。 (あ、あれ?)  あれ、おかしい。リアサの体も胸も、どきどきして、心臓がぎゅっと掴まれたみたい。  その少年を見た時から、リアサは全部、おかしくなった。体がばらばらになったパズルのピースみたいで、うまくまとまらないの。 「お嬢さーまー」 「おじょうさーまー」 「ああ、お嬢様、どこですかー」  デミカや私つきの若いメイドたちが、必死で捜索している。  ああ、どうしよう。これ何?どきどきして、胸が苦しくなって、汗も出て、耳もぴーんと立ったままだし、お尻の尻尾も上向きのまま。  変なものを食べたか、強烈な匂いを嗅いだか、前にスカンク族の人に遭遇した時と同じみたい。 「君はここの子?」  私の胸はまたずきゅーんとなった。あろうことか、さらにその少年は私を惑わす微笑みをしたから。  なんだか、病気みたい。これは治療が必要だわ。私、薬を飲まないと行けないのでないかしら。  こんなに我を無くしたり、汗をかいたり、どきどきしたら体がもたないもの。こんなの普通じゃない。  デミカの言うお約束、お母様の言う心配も本当だった。これが危険。村の外には危険が多い。村の人は危険だって、本当だった。   ああ、これしちゃだめ、これしなきゃだめ。私が大切って言うけど、私ってもう、危険に遭遇しちゃった。なぜ、こんな危険なものに遭遇しちゃったんだろう?ああ、危険に近づかなきゃ良かった。  早く家に戻って、薬。デミカ、薬よ。 (了)
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!