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「俺さ、今は違うキャラになることに楽しさを覚えてるんだ」
浜崎君の言葉に私は理解が追いつかない。
「違うキャラ? 楽しさ?」
「そう。本当の自分を理解してくれるのは学校の生徒じゃなくてもいい。そして、本当の自分以外があってもいい。そう思うようになってから楽しくなってね」
私はますます分からなくなった。
「高校での俺は存在感のない俺。今は素。他に……」
「他にもあるの?」
「興味ある?」
私はこくりと唾を飲んで頷いた。
浜崎君は畳に無造作に置かれていたスマホを拾い上げた。
「市瀬さんなら大丈夫と信頼して見せるよ」
浜崎君はスマホの画面を私に見せた。
「え?!」
スマホの画面の中には、非日常の髪型、服装でポーズをとっているイケメンがいた。
「知ってる? こういうの」
「コスプレ……?」
「そう、コスプレ。ちなみにこれ俺」
「ええ?!」
よく見るとポーズを決める美少年の瞳の色が左右で違う。
「オッドアイってコスプレではウケがいいんだよね。普段地味男を演じてるからこうしてインスタであげても俺って気づかれないんだ」
「すごい……!」
私は画面と実物の浜崎君を見比べて、感嘆の声を上げた。今の浜崎君とも違う、二次元の世界から飛び出してきたような浜崎君。素晴らしい出来だと思った。
「服はどうしてるの?」
「手作りだよ。母さんに手伝ってもらう時もあるけど、自分でほぼ作る」
今日だけで私の知らない浜崎君の膨大な情報が頭に入ってきて、私は目の前がチカチカした。
「だから、俺は色んな自分を楽しんでるから、学校での自分も今は嫌じゃない」
にっと笑った浜崎君の笑顔は一際輝いて見えた。
いいな。やっぱり浜崎君になりたい!
「市瀬さんも変身願望があるなら手伝うけど? レイヤーの中では市瀬さん、浮かないと思うよ?」
「わ、私?!」
「もちろん無理にとは言わないけど」
何だろう。ワクワクする。自分を隠すんじゃなくて見せるなんてこと、考えたこともなかった。
「や、やってみたい!」
「じゃあ、まず、今日は体調治さなきゃね」
私の体温が再び上がりだす。
私をやめたいと思っていた。そっか。違う私になるって方法もあるんだ。
「お腹空いてない?」
「うん。まだ食欲はないから」
「そっか」
浜崎君が右上を向いたから視線を辿ると、時計の針が十四時を回ろうとしていた。
「まだ外は暑いからしばらく寝てたら? エアコン寒くない?」
「うん。大丈夫。ありがとう」
「俺、なんか食べてくる」
浜崎君の足音が遠くなる。
私はなんだか幸せな眠りに落ちた。
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