絶対安全ハサミ

5/10
前へ
/191ページ
次へ
 万力のハンドルを回し、ハサミに少しずつ力をかけていく。 「博士、もしハサミが壊れても、怒らないでくださいよ」 「怒りはしないが、そんな事にはならないと思うぞ」  三城さんはハサミに相当自信があるようだ。お許しが出たので、心置きなくハンドルを回していく。普通のハサミならとっくにぺちゃんこだと思われるが、びくともしない。  意地になって回していると、突然バキンと音がした。ハサミではなく、万力の方が壊れた。当然、ロープは切れるどころかハサミが触れてさえいない。 「いやいや、絶対おかしい」 「なぜ君が怒るのだ」 「どんな素材で出来てるんですかっ。オリハルコンですか。ヒヒイロカネですかっ」 「落ち着け。絶対安全を謳う以上、万力程度の外力ではびくともしないさ」 「こうなったら、高熱で溶かして…」 「何の検証をする気だ」  悔しいが、物を切れないと言う点については、認めざるを得ないようだ。 「鈴井君。検証するのは何も動作や耐久性だけではないぞ。わたしは、使用用途を見出してくれる事を期待しているんだ」 「つまり、このハサミの使い道ですか? 切れないハサミなんて、ただの鉄の塊ですよ」  わたしはハサミをシャコシャコしながら三城さんに答えた。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加