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万力のハンドルを回し、ハサミに少しずつ力をかけていく。
「博士、もしハサミが壊れても、怒らないでくださいよ」
「怒りはしないが、そんな事にはならないと思うぞ」
三城さんはハサミに相当自信があるようだ。お許しが出たので、心置きなくハンドルを回していく。普通のハサミならとっくにぺちゃんこだと思われるが、びくともしない。
意地になって回していると、突然バキンと音がした。ハサミではなく、万力の方が壊れた。当然、ロープは切れるどころかハサミが触れてさえいない。
「いやいや、絶対おかしい」
「なぜ君が怒るのだ」
「どんな素材で出来てるんですかっ。オリハルコンですか。ヒヒイロカネですかっ」
「落ち着け。絶対安全を謳う以上、万力程度の外力ではびくともしないさ」
「こうなったら、高熱で溶かして…」
「何の検証をする気だ」
悔しいが、物を切れないと言う点については、認めざるを得ないようだ。
「鈴井君。検証するのは何も動作や耐久性だけではないぞ。わたしは、使用用途を見出してくれる事を期待しているんだ」
「つまり、このハサミの使い道ですか? 切れないハサミなんて、ただの鉄の塊ですよ」
わたしはハサミをシャコシャコしながら三城さんに答えた。
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