絶対安全ハサミ

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 どんなものだろうと、絶対に切れないハサミ。その存在意義とは。 「なんだか、禅問答みたいですね」  わたしはハサミを観察しながらつぶやいた。 「君の柔軟な発想力を見せて欲しい。難しく考える必要はない。ブレーンストーミングを実践しよう。思いついたことを言ってみてくれ」  三城さんは簡単に言うが、こんなものに答えなんかあるのだろうか。  ブレーンストーミングとは、数撃ちゃ当たるの論法で、アイデアを出しまくって、まとめる方法。否定しないというのが、基本ルールだ。 「例えば、祝典のテープカットってあるじゃないですか。このハサミにすり替えておけば、テープが切れなくて大勢の前で大恥をかかせられます。気に入らないお偉いさんに最適かと」 「最低の発想だな」  三城さんがバッサリ切ってくる。 「いきなり否定しないでくださいよ。受け入れていかないと」 「……うむ、道徳心をかなぐり捨てた潔い発想だ」  三城さんが無理やりコメントしてくるのでちょっと面白い。 「こういうのはどうです? ネタに困ったマジシャンに売りつける」 「奇術と科学のコラボレーションだな。価格は億超えになるが、売れるといいな」 「そんなにするんですか、これ」  思わず声が上ずった。気軽に触ったり、万力で挟んだりしていたが良かったのだろうか。
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