絶対安全ハサミ

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「そもそも、これを発注した人がいるんですよね。何者なんです?」  謎のハサミの開発に、一億円を超えるお金をポンと出せる人物とは一体。 「依頼人(クライアント)の情報は、部外者に対する守秘義務がある」 「わたし、ラボ(ここ)の関係者ですけど」  三城さんはひとつあくびをすると、近くの椅子に腰掛けた。 「ともかく、そいつの有用性を早いところ見つけてくれ」 「あの、聞いてました?」  三城さんは説明する気はなさそうだ。わたしは諦めて、机の上のハサミに視線を戻す。莫大な開発費がかかっているとわかった途端に、触るのがはばかられる。 「あれ、ちょっと待って下さいよ。絶対に切れないといいながら、切れるものがあるじゃないですか」 「ほう、言ってみたまえ」  わたしはハサミを手にして、三城さんの前でシャコシャコしてみせた。 「空気ですよ」  三城さんはこれみよがしにため息をつくと、首を横に振った。 「空気とはただの混合気体に過ぎない。いくらハサミを通しても、分子間の結合に影響はないのだ」  なんだか馬鹿にされた感じがして面白くない。  絶対に切れないという事は、逆に言うと挟んだものは安全とも言えるわけだ。その辺りの機能を上手く利用出来ないだろうか。
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