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「伝統を守り、古き良き仕組みを大事にすることこそ、新しい道に繋がるのです」
帝京テレビのスタジオに忍び込んだわたしたちは、大門の口上を苦々しい思いで聞いていた。
「あのタヌキめ、よくもぬけぬけと。ここから狙撃してくれようか」
「安藤さん、お願いだから抑えて」
姿を消しているので見えないが、彼女はまだ般若モードのようだ。
『二人とも、すまない。こんなことに巻き込んでしまって』
三城さんから通信が入る。お兄さんの事になってから、すっかりしおらしくなってしまった。
「らしくないですよ、博士。あの人を野放しには出来ないでしょ」
『それはそうだが』
「鈴井様の言う通りです。さあ、ご命令をどうぞ。あのタヌキの眉間を撃ち抜けと」
「安藤さん、あくまで犯罪にならない程度にお願いしますよ」
『わたしとしては、大事にはしたくない。穏便に頼む』
三城さんはきっとお兄さんの事が心配なのだろう。面と向かっているときは反発しているように見えたのに、ツンデレが過ぎる。ちょっと三城さんが可愛く思えてしまった。
「承知しました。穏便に処刑させていただきます」
「穏便な処刑とは」
安藤さんについてきたのはいいものの、この人、何をやらかすつもりなんだろう。
「現在、氷室総理が掲げている〝PR構想〟について、ご意見をお伺い出来ますか」
番組の進行役のキャスターが、大門に意見を促している。彼はふてぶてしい表情をして、カメラを見据えた。
「フン、悪習を取り除くとは言いますがね。先程から申している通り、何事も積み上げてきたものがあってこそ、今があるんですよ。あの構想は、総理一流のリップサービス、といったところですかね」
「ということは、官房長官は構想に反対されていると」
「いえいえ、私はあくまで程度の話をしているだけです。いきなり全てを壊して一から作り直すなどというのは、ちょっと子供じみた表現だとね。総理はまだお若いですから」
大門は、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。安藤さんではないが、わたしも一発ぶん殴ってやろうかと思った。
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