三城博士

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「君、ケガはないか」  背後から女の人の声がした。振り返ると、白衣を着た女性がビルの屋上に立ってこちらを見ている。その足元から伸びている何かが、わたしの体を掴んでいるようだ。彼女が何かを操作すると、わたしの体はビルの方へ引っ張られていく。  無事に屋上に戻ったものの、流石に恐怖で足腰が立たない。そんなわたしを見下ろす形で、白衣の女性がわたしに声をかけてきた。 「君、死ぬのはよくないぞ」  色白で、緩いパーマのかかった長い栗色の髪。眼鏡の奥には切れ長の目。どちらかというと精悍な顔立ちの彼女は、腰に手を当ててわたしを見ていた。 「まだ死ぬ気はなかったんですが」 「まったく、その若さで命を軽んずるとは」 「……話、聞いてます?」  彼女は肩をすくめると、わたしの腰をがっちりつかんでいた機械を取り外した。 「あの、それは何なんですか?」 「全自動飛び降り防止装置〝ハヤマルナ三号〟だ」 「……はい?」  まったく意味がわからない。飛び降り防止というか、むしろ一回突き落とされたような気がするが。 「たまたまメンテナンスに来ていたら、君が引っ掛かったというわけだ。ここを選んでよかったな」 「だから、死ぬ気があったわけじゃ……」  彼女はまるで聞く耳を持たない。機械の腕を巻き取ると、ドライバーを持ち出して、ガチャガチャといじり始めた。腰が抜けた状態のわたしは、しばらくその様子を見ていた。 「さて、わたしは行くが、飛び降りようとしても無駄なことだぞ。この屋上全体をカバーするようにメンテナンスしたからな」  作業を終えた彼女は道具箱を抱えて立ち去ろうとしたので、わたしは声をかけた。 「あなたはどういう方なんですか?」 「名乗るほどの者ではない。わたしは発明家の三城(みしろ)だ」  名乗ってるじゃん、と突っ込む間もなく、彼女は白衣を翻して颯爽と去っていった。
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