三城博士

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 次の日の土曜日。わたしは駅裏の丘の上にたたずむ建物を訪れていた。コンクリート打ちっぱなしの四角い建物は、おしゃれというより無骨な見た目だ。入口の門にかすれた文字で〝三城クリエイティブラボ〟と書かれた表札がある。  昨日、屋上で会った女性は、白衣のポケットから免許証を落とした。わたしはその住所をたどってここにたどり着いたのだ。  わたしは恐る恐るインターホンを押してみた。チャイムが鳴るわけでもなく、特に反応がない。留守かと思って引き返そうとした時、電子的な声が返ってきた。 『いらっしゃいませ。なお、このやり取りはすべて記録されますので、あらかじめご了承ください』  突然言われても了承しかねるが、声はそのまま続けた。 『主人に御用の方は〝1〟を。配達等の御用は〝2〟を。その他悪質な訪問販売の方は〝3〟を押してください』  どこかで聞いたようなフレーズに続いて、目の前に数字が並ぶボタンが現れた。  これは押さなかった場合はどうなるんだろう。昨日の謎の機械のことが頭をよぎる。というか、悪質な人が正直に〝3〟を押すだろうか。わたしはとりあえず〝1〟を押してみた。すると、がたんと音がして、足元の床が地下に降り始めた。 「えっ、えっ?」  何が起きたかわからないまま、わたしは地下へと運ばれていく。 『なお、この先、お客様のご用件によっては、軽い電気的な衝撃を体に流させていただく場合があります。命に支障はありませんが、ペースメーカーなどをご使用の方、その他やましい考えをお持ちの方は、速やかに〝0〟を押してご退出ください』  電気的な衝撃とは。わたしはやばいところに迷い込んでしまったのでは。ちょっと〝0〟を押そうかと思ったが、やましい奴だと記録されるのは困るので、ぐっと堪えた。
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