三城博士

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『只今より、お客様の身元を確認させて頂きます』  音声の後、緑色の光の輪が頭上から降りてくる。これが〝電気的な衝撃〟なのかと思って身構えたが、特に痛いとかはなかった。光は足元まで降りると消えてしまった。CT検査みたいなものだろうか。 『身元を確認しました。〝三城玲奈〟二十九歳』 「……いや、違いますけど」  機械に突っ込むのもどうかと思ったが、人違いなのだから仕方ない。 『ご主人様、ご主人様がお戻りになられました』  機械はわたしの意見は聞いていないらしい。なんだかトンチンカンな事を言うと、前方の扉が左右に開く。その先にはあの白衣の女性が腕を組んで立っていた。 「君は昨日の自殺志願者」 「だから、あれは誤解なんですって」  昨日は少しだけ気分が落ち込んでいたが、一晩寝たらスッキリしてしまったぐらいだ。全国の自殺志願者にも一旦ぐっすり眠ってみることをおすすめしたい。 「それより、なぜ君がわたしのIDを持っている」 「ID? もしかして、これのことですか?」  わたしはポーチから拾った免許証を取り出した。 「昨日、屋上で落とされたんですよ」 「そうか、わざわざ届けに来てくれたんだな。礼を言う」  彼女は深々と頭を下げた。身のこなしが妙に洗練されていて、舞台俳優みたいな動きだ。 「いえいえ、わたしも命を助けて頂いた的な感じになっているので」  腑に落ちていないので、めちゃくちゃ曖昧な受け答えをしてしまった。 「こいつを無くしたせいで、ラボ(ここ)に入るのに苦労をしたところだ。助かったよ」  よく見ると、彼女の白衣の端っこが焦げている。その理由を深く考えるのは止めておいた。
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