20人が本棚に入れています
本棚に追加
「アムールティでございます」
応接用のテーブルに通されたわたしに、メイドさんがお茶を持ってきた。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、彼女はニコリともせずに去っていく。表情と口調があまりに無機質だ。もしかして、アンドロイドだろうか。
「気を悪くしないでくれ。安藤さんは人見知りでね」
「ああ、アンドロ……じゃなくて、安藤さんとおっしゃるんですね」
出されたお茶を一口飲む。甘いフルーツ風味がわたしの好みだ。
「それで、君の名前を聞いてもいいかな」
「鈴井茜です」
わたしが名乗ると、彼女はじっとこちらを見つめてきた。その整った顔立ちのせいで、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
「……鈴井君、君に頼みがある。このラボで働いてくれないか」
「……え?」
唐突な話に紅茶を吹き出しそうになった。
「死を選ぶぐらいなら、思い切って生き方を変えてみるのも悪くないだろう」
「いやいや、だから、わたしは自殺志望はなくて……」
「今、人材を探していてね。ひと目見て、君が適任だとわたしは判断した」
この人、相変わらず、人の話を聞いていない。いくら嫌なことがあっても、これまで沢山の苦労を乗り越えて、やっとスキルも身についてきた仕事だ。そう簡単に手放す訳にはいかない。
「給料なら、心配しなくていい。今の三倍出そう」
「やります」
わたしは即答した。
最初のコメントを投稿しよう!