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三城博士のラボの奥に、開発室があった。広さは学校の体育館ぐらいある。なんに使うのかさっぱりわからない物が、あちこちに転がっている。地下にこんな空間があること自体が、ちょっと驚きだ。
「当面の間、鈴井君にやってもらいたいのは、発注された発明品の試用と検証だ」
三城さんは銀色の光沢がある、大振りのハサミを手渡してきた。手に持つだけで、ずしりと重い。
「これは?」
「〝絶対安全ハサミ〟だ。とあるクライアントから依頼を受けてな」
ネーミングからすると、子供でも怪我の心配なく使えるハサミだろうか。
そんなわたしの考えを読んだかのように、三城さんは人差し指を左右に振った。
「甘いな、鈴井君。これはどこにでもあるような代物ではない。文字通り、絶対に安全なハサミなのだよ」
「まあ、そう名乗っちゃってますものね」
三城さんはどこまで本気かわからない部分がある。突っ込んでいいのか迷う。
「想像力を働かせてみたまえ。〝絶対に〟安全とはどういう意味か」
じっくりハサミを観察してみる。ハサミの危険な部分と言えば、刃の部分だ。確かに先端が丸く加工されている。内側の刃も同様に潰されているので、少なくとも手を切るような危険は無さそうだ。
「試してみてもいいですか」
わたしは手近な作業台にあったメモ用紙を取り、試しにハサミを入れてみた。
「え? 何これ」
やってみて初めて驚く。どんなに力を入れても、紙が切れない。刃が無くて切れないのではなく、紙を挟むこと自体が出来ない。紙を挟むスレスレのところでロックがかかるのだ。
「どうだ、安全だろう」
「いや、あの……安全とは」
紙にとっては安全だろうが、ハサミってなんだっけ。
「あらゆる角度から検証してみてくれ。仕様を理解していない人間がやる方が、的確に不具合を発見出来るものだ」
検証と言われても、一体何を試せばいいのだろう。わたしはハサミを持ったまま途方に暮れてしまった。
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