絶対安全ハサミ

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 検証その一。物を切る機能について。  まずは、ハサミと言うからには、物を切るのが基本だ。幸い開発室にはいろんな物が転がっているので、サンプルには事欠かない。  紙が切れないのは試したが、紐のようなものならどうだろう。わたしは細いビニール紐を見つけて、挟んでみた。紙の時と同様に、触れるギリギリで刃が動かなくなる。つまり、物体の大きさを感知して、ロックがかかる機構が組み込まれているらしい。  わたしは段々意地になってきた。なんとしてもこのハサミで物を切ってやるぞと。豆腐みたいに柔らかいものなら、押すようにして切れるに違いない。室内を探してみるが、流石に豆腐は見当たらない。 「博士、豆腐とかあったり……しませんよね」  ダメ元で聞いてみると、三城さんは棚からところてんを突く道具に似たものを持ってきた。  彼女は手近のテーブルに紙皿を置いて、道具の先を向ける。反対側のハンドルを押すと、皿の上に豆腐がぷるんと飛び出してきた。 「なんです、これ。楽しい!」 「豆腐生成マシン、〝マメカタメール〟だ」  ネーミングはともかく、豆腐が出てくる様が気持ち良すぎる。危うく本来の目的を忘れそうになった。 「もう昼食にするのか?」 「いえいえ、検証に使うんですよ」  わたしは豆腐に狙いを定めてハサミを構える。心の中でつぶやいた。悪いが、ハサミのサビになってもらうぜ。  豆腐を突くようにしてハサミを動かす。ところが、刃が豆腐に届かない。わたしは親の仇の如く、突きを繰り出した。周りに弾力のある見えない壁があるかのように、ハサミが弾かれてしまう。 「絶対安全ハサミを甘く見たな」 「くっ」  博士が不敵に笑みを浮かべる。なんだろう、この敗北感は。
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