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私は軽自動車に工具を積み込んで小学校に行きました。小川が二つに分水する手前にあるのは私が学校帰りに買い食いをした駄菓子屋です。懐かしくなり行ってみたくなりました。小川の石橋には手摺がありません。下を清流が流れています。梅花藻の花が揺れています。当時と全く変わりませんでした。店に入ると老婆が丸椅子に座っていました。老婆が顔を上げて笑いました。
「いらっしゃい」
私はぞっとしました。それは私が子供のころに居た老婆とそっくりだったからです。私が驚いていると老婆が立ち上がり石橋の上まで出て来ました。何をするかと思っていたらモンペを下げて立小便をしているのです。私は見ぬふりをしていました。
「見ちゃいや」
老婆は笑って言いました。
「酢イカを二本くれますか」
老婆はセルロイドの蓋を開け、丸口に手を突っ込み串を掴んで私に差し出しました。酢イカのタレが指についたらしくそれを舐めています。
「おばあちゃんいくら?」
「二本10円だよ」
「えっ」
それは50年前の値段でした。私は50円を渡しました。
「お釣りは要りませんよ。ところでおばあちゃんはここの娘さんだよね?私は50年前によく買い物をしました。その時のおばあちゃんによく似ているから、そうでしょ?」
老婆はただ笑っていました。
「釣りの分籤を引いて行きんさい」
老婆は裏返しに張り付けた丸いシールを剥がすように言いました。私が剥がすと2番と出た。
「スカだ」
40円分の8回を引いて全てスカでした。
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