3人が本棚に入れています
本棚に追加
「また来ます」
私は老婆が娘であることをどうしても証明したくなりました。娘でなくても齢の離れた妹、又は親戚でなければ辻褄が合わない。あの時の老婆が生きていれば130歳を超えているからです。
この村も昔は隆盛を規した時代がありました。養蚕業が盛んで多くの人が移り住んで来ました。しかし戦後は廃れ、200戸を超えていた家も今では25軒になりました。それでも仕事があれば若者も残るのでしょうが痩せた土地は専業農家での生活は成り立たない。出稼ぎに出る夫が妻を呼び寄せてしまい家は荒れ放題になっているのです。二束三文で売り払い故郷を捨ててしまうのでした。その廃屋に近い家を私が順番に直しているのです。一軒を二か月ぐらい掛けて修復します。既に帰郷して半年が経ち村興しの古民家民宿のオープンが決まりました。役所が大々的に宣伝をしています。そして最初の客はカナダからの家族でした。私は長の家に呼ばれました。長の家族や役所の連中が既に集まっていました。
「ほうら、今日の主人公が登場だ」
私は拍手で迎えられました。
「さあ、上座へどうぞ」
私は照れながらも上座に着きました。
「カナダからのお客さんらしいですね」
「ええ、そうなんですよ。日本通の方で、別荘を探しているらしいです。猟が好きで熊狩りを楽しみにしていますよ」
話は盛り上がり歌も飛び出した。役所の担当が私の隣に座りました。
「一つ困ったことがあるんですよ」
「何でしょうか?」
「小学校の手前に駄菓子屋があるのをご存知ですよね?」
「ええ、子供のころよく買い食いしました。あの駄菓子屋が何か?」
「まだここだけの話ですよ。村の長にも話していません」
役所の担当は声を潜めた。
最初のコメントを投稿しよう!