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「あそこは村興しを始めるにあたり一番立地のいい場所です。分水嶺となり清流が村の真ん中を流れていく。あの川にはカッパ伝説もあります。実はあそこに村興しのためにカッパのモニュメントを設置したいと考えています。と言うより町長を始め役所内では決定事項として既に計画がなされています」
「ですがまだ店主のおばあさんが営業しているじゃありませんか。おばあさんは同意したんですか?」
担当は難しい顔をした。
「それがまだ話をしていません」
「どうして?断られるも承知でお願いしたらどうです」
「その役をあなたにお願いしたいのです。村の長と懇意にされているあなたなら駄菓子屋のおばあさんも折れてくれると思うのですが」
「代替え地はあるんですね」
「ずっと奥になりますがちゃんと用意しています」
「通学路ですか?」
「いえ、通学路からはずっと離れてしまいます」
「それじゃ駄菓子は売れませんよ」
「駄菓子販売では生活が成り立たないんです。私共もそれなりに調査をしています。購入した子供等からいくら使ったのか聞き取りをしました。一週間で655円でした、一日平均100円にも満たない。これじゃ商売している意味がありません。ですから役所は代替え地に小さいけれど家を建て保護を申請していただき、それで生活してもらいたいと考えています」
一日百円では仕入れも出来ないだろう。身体は肥えているし顔色もいい。食料に不自由している様子は窺えない。
「貯金があるんじゃないでしょうか、そうだ、きっとそうですよ、先代が残した貯金を切り崩し生活している」
「それが郵便局にも確認しました。あの家の方が口座を開設したことは一度もないんです」
「それじゃタンス預金でしょ、畳の下にがっちり残しているんですよ。子供等からは50年間値上げせずに頑張って営業してくれるおばあさんの存在は大きいと思いますよ。あの駄菓子屋を潰せば子供等の楽しみを奪ってしまうような気がします。どうしてもあの場所じゃなきゃ駄目なんですか?」
担当は大きく頷いた。
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