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「あそこでなければこの村興しは失敗します。五年前に五つの町村が合併しひとつの町になりました。この村以外はそれなりに工夫を凝らし観光客の集客に成功しています。その利益がこの村で失われてしまうんです。あなたが実家を直して古民家の案が浮かんだ。そして海外からの客も来ることになりました。今がチャンスです。この村を盛り上げて行こうじゃありませんか。これは町長の案ですが、全戸が修復されてすべて古民家となり、カッパの里として大々的に村興しを始める時には、あなたにその管理をお任せしたいと考えています。カッパの里の校長先生です」
私にとってこんな夢みたいな話はありません。五年で貯えが底をつき、餓死も頭に入れていた私が校長先生です。
「やりましょう、駄菓子屋のおばあさんを説得させてみます。期限はありますか?」
「出来れば三月前半、既にモニュメントは作成に取り掛かっています。駄菓子屋が無くなれば基礎工事を始められます。駄菓子屋の裏山は山桜が群生しています。小川の土手には菜の花が咲いています。客が来ないわけがないじゃありませんか」
「私は報酬を貰えるのでしょうか?」
「当り前じゃないですか、町長と同額を考えています。それに定年もありません」
私は俄然やる気になりました。一か月であのおばあさんを口説き落とせばいい。村の存続反映の為と言えば聞き入れてくれると確信していました。代替え地に家を建て、役所の保護下で暮らしていけるなら、あんな駄菓子屋なんかに拘るわけがないと思っていました。
「おばあさん、こんにちは」
老婆は火鉢で手を温めていました。罅だらけの手はもう人の手とは思えません。
「籤か?」
老婆が笑いました。
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