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あの子に初めて会ったのは高校の入学式の日だった。
ママがこの学校の卒業生で、ここに行きなさいというのでここに行くしかなかった。きっとほかの学校を受けようとしても受けさせてはもらえなかっただろう。ママはそういう人だから。
あの子は…見るからに平凡な子。
顔だちも体格も…仲良くなって話を聞いてみたら中身も平凡。
気になったのは名前が似ていたところ。
私は横川みどり、あの子は横山みのり。
苗字もよく似ている、名前もよく似ている。
いつも幸せそうにしてる子。
ときどき父親の文句を言っている。
けれど私には文句を言える父親ははじめからいない。ママはいるけど勉強しなさいと怒ってくれることはない、私には興味がないから。ママの彼氏は長くて数日、長くても一年は持たなかったみたい。あまり話さないからよくわからないが、別れる度に悪口を言うのを聞かされるから別れる度にわかった。
いつも学校が終わって家に帰ると一人。
日によっては次の日の朝学校に行く時まで一人。
あの子のようになりたいと思ったから、
同じものを好きになった。
同じものを嫌いになった。
同じ服を着た。
同じ持ち物を持った。
同じ男の子のことをかっこいいと言った。
それでもあの子にはなれない。
あの子のように幸せになりたい。
2年生のクラス替えの日。
私たちはクラスが分かれた。
もう同じクラスではない。
もうあの子にはなれないと思った。
とっさに放課後屋上で会おうと誘った。
鍵がかかっているのは知っていたけど、開けることはできる。ママの何番目かの彼氏が鍵の開け方を教えてくれたから。
先に屋上に着いたのは私。
みのりが来るのを待った。
屋上のドアが開いてみのりが私の名前を呼びながら屋上に出てきた。
まだ私を見つけてない。
あなたになりたい。
あなたになりたかった。
けどなれないんだったら…
もういらない。
後ろから思いっきりみのりを押した。
勢いよくみのりはフェンスを越え…見えなくなった。
ごめんね、みのり。
あなたになりたかった。
fin
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